Baidu(百度)が発表した推論モデル「ERNIE X1」は、DeepSeek-R1と同等性能でありながら利用料は半額だという。ただ、一部の専門家は懐疑的な見方を示す。
中国のITベンダーが、米国や欧州のITベンダーと“互角”に競争できる生成AI(AI:人工知能)モデルを相次いでリリースしている。検索エンジンを手掛ける中国のITベンダーBaidu(百度)は2025年3月16日(現地時間)、推論モデル「ERNIE X1」と基盤モデル「ERNIE 4.5」を発表した。同社によると、ERNIE X1は中国のAI技術ベンダーDeepSeekの推論モデルと同等の性能を有しながら、APIの利用料はその半額だという。
ERNIE X1とERNIE 4.5は、いずれもマルチモーダルなモデルだという。マルチモーダルとは、数値や画像、テキスト、音声など複数の種類のデータを組み合わせて処理できることを意味する。
Baiduによると、ERNIE X1はDeepSeekの推論モデル「DeepSeek-R1」と同等の性能を持つという。同社は「ERNIE X1は回答の正確性、創造性を兼ね備え、日常会話から論理的な推論、複雑な計算まで優れた性能を発揮する」と説明する。
ERNIE X1のAPIの利用料は、100万入力トークン当たり0.28ドル、100万出力トークン当たり1.10ドルとなっている。ERNIE 4.5の場合は100万入力トークン当たり0.55ドル、100万出力トークン当たり2.20ドルだ。BaiduはAIクラウドサービス「Qianfan Foundation Model Platform」を通じて、ERNIE 4.5のAPIを提供している。同様にERNIE X1のAPIも提供する計画だ。
対して、DeepSeek-R1のAPIの利用料は、100万入力トークン当たり0.55ドル、100万出力トークン当たり2.19ドルだ。AI技術ベンダーOpenAIの推論モデル「OpenAI o1」は、100万入力トークン当たり15ドル、100万出力トークン当たり60ドルとなっている。
ERNIE 4.5とERNIE X1の発表は、世界のAI市場における中国の台頭を示す事例だ。DeepSeekに続き、中国のITベンダーAlibabaも2025年1月に新モデル「Qwen2.5-Max」を発表した。2025年3月にはAI技術ベンダーManus AIが汎用(はんよう)AIエージェント(自律的な意思決定やタスクの実行をするシステム)を発表し、競争は激化している。
ERNIE X1とERNIE 4.5のようにマルチモーダルなモデルは目新しいものではない。GoogleやOpenAIも、すでにマルチモーダルなモデルを提供している。
ワシントン大学(The University of Washington)情報学部教授のチラグ・シャー氏は「Baiduが開発したモデルの性能は、実際にモデルをテストしてみなければ検証は難しい」と述べる。
ユーザー企業の注目を集める可能性があるのは、EENIE X1がDeepSeekのモデルと同等の性能を持ちながら、APIの利用料の低価格化を実現したことだ。シャー氏は「性能に関するBaiduの主張が事実だとすれば、価格が決め手になる」と述べる。
シャー氏によると、BaiduはDeepSeekと同じアプローチ、すなわちオープンソースモデルのファインチューニング(独自の追加トレーニング)を採用し、コストを抑えることができた可能性がある。
Baiduは2025年後半にERNIE 4.5モデルをオープンソースにする計画だが、モデルの構築方法に関する詳細は明かしていない。
調査会社The Futurum Groupのアナリスト、デビッド・ニコルソン氏は、「Baiduの利用料は必ずしもモデル構築にかかる全てのコストを反映したものではない」と指摘する。ニコルソン氏は「現時点では、これらのモデルの真のコストを測ることは不可能だ」と言う。
Baiduの発表が、GPU(グラフィックス処理装置)ベンダーNVIDIAの年次イベント「GPU Technology Conference 2025」(GTC)の開催2日前だったことは「偶然ではない」とニコルソンは指摘する。「これはAI市場の覇権を巡るグローバルな戦いの一つだ」(ニコルソン氏)
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