米国で始まった3次元オンラインゲームの発展型であるセカンドライフが、我が国でも注目されています。米国のリンデンラボが運営するセカンドライフとは、従来のゲームのように決まったシナリオはなく、参加者は皆、アバターを活用して自己表現を行い、土地を買い、いわばパワーポイントの三次元部品を組み合わせたようなビルを建ててオフィスを作り上げ、お互いが3Dコンテンツ販売のビジネスを行うという、参加者により全体のシナリオが作られる仮想世界の遊びです。仮想のビジネスでの売買はリンデンドルという仮想通貨によって行われ、実際のドルとも交換できるRMT(リアルマネー・トレード)が普及し始めています。
この仮想世界の遊びに一般企業が参加を始めました。その裏にはマスメディアからインターネット、特にソーシャルメディアへの広告費のシフトの波があります。セカンドライフは、その中でのキラーアプリケーションの1つになるかもしれません。
マスマーケティングの曖昧な効果に疑問を持つ企業がインターネットに広告費をシフトする流れは、日米共に加速する勢いですが、その一部がセカンドライフの仮想世界型オンラインゲームに向かい始めました。ボランティア的な参加者の大衆表現とインターネットにシフトする広告費の支えるWeb2.0型の経済が、ゲームの世界にも進出を始めたと考えられます。
米国では2005年春、動画サイトのYouTubeが登場した時と同じような現象として捉えられているようです。
2003年にサービスを開始したセカンドライフは、2006年春頃には参加者数が約10万人でしたが、その後、経営雑誌のビジネスウィーク、経済新聞のウォールストリート・ジャーナル、英国BBCなどに取り上げられ、すっかり有名になりました。その結果、現在、毎月38%ずつ参加者数が増えています。一般参加者とともに企業の参加数が増え始めている点にマスコミも注目しています。セカンドライフでは、誰でもビジネスパートナーとして登録すればプロジェクトを立ち上げることができます。その結果、内部で土地の販売や情報提供、アバターの服装部品や建物部品の販売などが行われています。
特に1ドル=280リンデンドルといった現実の通貨と変動型交換レートを設けるなど、ビジネスの仕組みに熱心なのも特徴の1つです。1日に50万ドル以上が内部で使われていると言われています。
筆者の見立てでは、セカンドライフの仮想世界は単なるゲームの延長ではありません。バーチャルリアリティによる住宅や商品のデザイン販売に繋がる新しい21世紀型マーケティングに発達する可能性があるからです。
うまくいけばオタクのゲーマーだけの狭い世界だけではなく、一般の消費者にアピールしそうです。

セカンドライフには2006年10月末現在、115万人が参加しています。最近では政治家や歌手などがセカンドライフ内で熱心にプロモーションを行っています。
そして米国企業のインテルやサン・マイクロシステムズ、シューズのリーボック、書籍のアマゾン、ソニー・ミュージックエンタテインメント、アディダス、トヨタ、ニッサン、アウディ、GM、ロイター、雑誌のワイアードやCNETなど、そうそうたる企業がスポンサーとして参加し、自社でお店やオフィスを出店しています。
そして、「アバター」の外見を変えられる洋服やスキンを販売しています。
各企業は商品やサービスの販売のためのプロモーション、ブランド浸透のためのプロモーションなどにセカンドライフを活用しようとしています。この点、参加企業の姿勢は動画投稿サイトのYouTubeやソーシャルネットワーキングサービスのマイスペースと同じと思われます。
セカンドライフのロイター社オフィスは、セカンドライフ内で最も人気の銀行とのインタビュー記事を公開しています。これはロイター社による自社サービスのプロモーション戦略と考えられます。ロイターはこんなに斬新な企業であるということを、セカンドライフに参加する若者にアピールしているわけですね。
面白いのは参加企業の社員がセカンドライフで自己表現をする場合、姓別に企業名などを使っている点です。例えばロイター記者のアダム・パシックさんはセカンドライフではアダム・ロイターと名乗っています。こうすればセカンドライフ内で所属する企業アイデンティティが明確になります。
筆者は米国企業がセカンドライフに対して、大きくはマイスペースやYouTubeなどのWeb2.0と同じトレンドの延長戦で考えていると見ています。
そこで、多くの企業が自社のビジネスに有効なのかどうか、さまざまなテストをしているといったところでしょうか。
参加企業にとって重要なのは、セカンドライフが自社の商品やサービスの広告宣伝に有効なのかどうかという点です。特に、オンラインゲームの世界における広告料は2005年の1.86億ドルから2008年には8.75億ドルに伸びると米国ヤンキーグループは予想しています。
また、ハーバード大学のロースクールが、セカンドライフで何が起こっているかを熱心に研究している点もよく知られています。
さて、アニメ的なゲーム要素を持ったセカンドライフの活用は、企業にとってどういう意味があるのかまとめてみましょう。
(1)自社が斬新なセンスを持っているとのアピールによるブランドネームのプロモーション
(2)商品やサービスの販売のためのマーケティング
(3)一般参加者によるデザインの提案、企業からのデザイン提案評価など、一般参加者の創造性の活用
(4)カスタム商品の共同デザインによる販売
特に(3)と(4)は、Web2.0の中では集合知の活用とか自己表現といわれているものに相当すると思われます。
これらの広告費に支えられたマーケティング面での特徴は、マイスペースなどのSNSや動画SNSのYouTubeでも見られました。特に企業が「Snakes on a plane」のような映画を消費者に売り込みたい場合、一般の消費者にプロモーションコンテストを呼びかけ、一般参加者が映画の主題曲を作成する、CGCM(消費者が作るCM)と呼ばれるプロモーションビデオの作成を促しました。この動きは米国では次第に盛んになり始めています。これは「巻き込み効果」を狙った一種の口コミマーケティングと考えられます。それがとうとうゲームの世界にも及びました。
セカンドライフの場合には、スターウッドホテルのように一般参加者が2008年に実際に建設されるホテルのデザインを仮想体験できる事例や、参加者とともにデベロッパーが自宅をデザインする事例が出始めています。これからは、企業がデザインセンスのある一般参加者に対して商品などのデザイン公募を行い、優れた作品をセカンドライフ内の投票にかけるなど、集合知や自己表現を活用したマーケティングなどが行われると考えられます。
これらは経験マーケティングなどと呼ばれていますが、イメージ中心の仮想世界を活用した一般参加者の想像力や創造力を解放する目的で活用されるでしょう。
筆者はセカンドライフを体感して、以前、住宅販売会社や自動車会社が人工現実感を活用した経験マーケティングをテストしていたのを思い出しました。個の自律が重視されるとともに一人一人の個性発揮が重要となる21世紀には、カスタム住宅やカスタムファッション、カスタムカーの時代になると言われて久しく経ちました。消費者参加型のデザインサイトととらえれば、セカンドライフは21世紀の消費世界に大きなインパクトを与える可能性があります。なるほど、グーグルやマイクロソフトの進出がうわさされるのもよく理解できます。
この動きは早晩、我が国にも上陸するでしょう。そうなれば新しいミクシィの誕生です。
Web2.0型の新しいコモンズであるセカンドライフに注目しましょう。
(野村総合研究所 社会ITマネジメントコンサルティング部 上席研究員 山崎秀夫)