地域における医療問題を解決するためには、現状の課題が何かを見極めることが重要だ。そうした地域医療の現状を可視化するサービスの提供が始まった。
2008年4月に施行された「第5次医療法改正」では、「医療計画の見直しなどによる医療機能の分化・連携の推進」が盛り込まれ、地域医療連携での体制などが見直された。これにより、疾病または事業ごとに必要となる医療機能を明らかにした上で、各医療機能を担う医療機関などの名称や数値目標が記載された医療計画を作成することになった。
また、地域医療には、行政的に病床の整備を図る地域単位として3つの「医療圏」が設定されている(医療法や地域保健法など)。地域の開業医や中小病院、市区町村が連携して身近な医療を提供する「一次医療圏」、隣接する複数の市区町村を単位として特殊な医療を除く一般的な医療サービスを提供する「二次医療圏」、都道府県や2つ以上の都道府県を単位として最先端・高度な技術を提供する特殊な医療を行う「三次医療圏」だ。
しかし、現実には、救急搬送患者が満床を理由に受け入れを断られたり、ある地域で多数の罹患(りかん)率のある疾患に関する適切なケアをその地域内の病院で実施できていないという課題も存在する。各医療圏における適切な医療連携体制の構築が求められる。そのためには、各医療圏の現状や課題を把握し、その適切な解決策を立案する必要がある。
そんな中、ペイシェント・ジャーニーとサイバー・ラボは2010年8月、地域医療連携を支援するサービスとして「ReasonWhy(リーズンホワイ)」の提供を開始した。このサービスは、地域における病院の医療サービスの内容と経営状態の変化や推移を可視化する。ReasonWhyでは自院だけでなく、地域の病院との関係性や地域の疾患別患者数の予測などを把握でき、それらを踏まえた戦略策定が可能になるという。
本稿では、ReasonWhyを提供する2社の開発者へのインタビューを交えて、そのサービスの概要を紹介する。
ReasonWhyは、官公庁などが公表している約20種類の統計資料をベースにして、ユーザーが指定する分析指標に合わせて情報を収集・加工し、その結果をグラフやチャートなどで表示するWebシステム。
医療コンサルティングなど病院経営や再生に携わってきた、ペイシェント・ジャーニー代表 塩飽哲生氏は「各病院の経営改善も大事だが、それだけでは地域や社会が抱える問題を直接解決できない」とし、「そもそも地域医療の実態とは何か?」と考え、地域医療の現状を可視化できるサービスの提供に取り組んだという。
塩飽氏からシステム開発を依頼されたサイバー・ラボは2010年5月からその開発に着手し、8月にReasonWhyをリリースさせた。NTTグループベンチャー制度第1号企業である同社は、独自の開発フレームワーク「サイバーフレームワーク」を活用し、短期間でシステムを構築した。サイバー・ラボの代表取締役社長 加藤康之氏によると、「ReasonWhyは、分析チャートによって分析指標の組み合わせやアルゴリズムが異なる。そのため、情報収集や加工、表示などが柔軟にできる仕組みが必要だったが、コンポーネントを組み合わせるサイバーフレームワークを活用することで迅速にシステムを構築できた」としている。
ReasonWhyには国立社会保障・人口問題研究所の「人口統計資料」や「将来推計人口・世帯数」、各都道府県・市区町村におけるがん検診や生活習慣病といった各種の統計データなどが含まれている。さらに、全国のDPC病院の病床数や経営情報、市区町村別の救急車搬送時間などとマッチングさせることも可能。
また、ReasonWhyでは病院経営分析のノウハウを生かしたグラフやチャートを定型フォーマットとして活用でき、4種の分析大項目、13種の分析中項目、45種の分析項目に地域と病院グループ、病院規模や年度、疾病分類、治療方法といった指標でのクロス解析ができる。これにより、医療圏レベルやDPC病院単位などさまざまな観点から、各地域の医療現場の状況を可視化できる。塩飽氏によると「公表資料を基にして独自にMicrosoft Excelで作成することも可能だが、その場合、ある1つの場面を表したチャートを作るだけでも2、3日かかり、それを別の地域や違った視点から展開するとさらに時間がかかる。ReasonWhyではさまざまな分析パターンを再利用でき、さらにユーザー間で新たな分析チャートを共有できる」という。
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