調査リポート:景気低迷時でもIT予算の使い道は変化せず予算の70%は保守・運用

欧州債務危機で第二の景気後退に襲われた2011年。Forrester Researchが発表したリポートによると、企業のIT予算の使い道は相変わらず。ITを戦略化するために企業がなすべきことは?

2011年12月09日 09時00分 公開
[Linda Tucci,TechTarget]

 2010年に世界同時不況が終息し、2011年はIT投資が回復するはずだった。長らく見送られてきた機器の更新が再び検討され、CIOはビジネスの拡大に向けて準備をするように言われていた。人材確保が難しくなるような話も聞こえていた。

 しかし、それは全て、欧州債務危機が発生して第二の景気後退の脅威が市場を襲う前のことだ。米調査会社Forrester Researchが発表したIT予算に関するベンチマークリポートは、予想された成長が実現しなかったことを示している。このリポートの主執筆者であるForrester Researchのアナリスト、クレイグ・シモンズ氏は「年頭にIT予算を編成する時点では、ほぼ世界的に景気の底は脱したという楽観的な見方が主流だった。しかし、その楽観的展望は、夢物語にすぎなかった」と話す。

 このリポートは、世界各地の大規模・中堅・小規模企業のIT役員およびテクノロジーに関する意思決定者2741人を対象に、2011年3月から5月にかけて同社が実施したアンケートに基づいている。これに続く追跡調査の結果は同年12月に発表される予定だ。

 「このところ企業は、経済とビジネスの成長に関してかなり慎重な見通しを立てているという話だ。この姿勢は今後のITへの投資に反映されるだろう」(シモンズ氏)

 2011年に見られるこの他の気掛かりな傾向として、IT予算の使い道がほとんど変わっていないことが挙げられる。前年度の調査結果と同様に、新規のITプロジェクトに使われたのは予算の25〜30%にすぎず、70%はForrester Researchが言うところのMOOSE(編注)、つまり組織、システム、機器の保守と運用に費やされている。クラウドやモバイルといったテクノロジー提供モデル導入の機運が高まり、CEOがITを競争力の1つと目する年に、IT予算の大半は相も変わらず現行のITの保守に費やされている。

編注:Maintain(保守)、Operate(運用)、Organization(組織)、Systems(システム)、Equipment(機器)。

 「提供する製品やサービスでITが重要な役割を果たす場合、予算の70%がMOOSEに使われているようでは、到底競争力を維持できない」とシモンズ氏は断言する。MOOSEに当てられた予算のうち約50%は現行システムの運用と保守に使われ、残りの20%は自然なビジネスの成長に対応するためのシステム拡張に割り当てられている。

 「運用と保守に割り当てる予算を50%未満に抑えなければ、ITは戦略的な“ビジネスパートナー”にはなれない」とシモンズ氏は忠告する。「それには、クラウドへの移行、仮想化技術の適用範囲の拡大、運用プロセスの改善、システム管理の自動化、価値を生まないレガシーアプリケーションの排除など、さまざまな対策を採り得る」という。MOOSEの中で最大の経費項目は、フルタイムのITスタッフに対する人件費で32%を占める。

ガバナンスの不在が招く大きなリスク

 2011年の調査では、「IT部門が関与せず、直接、業務部門によってなされているIT支出状況」についてのベンチマークが追加されたが、その結果を見ると、ビジネスの成長を促すためのITリソース不足には特に不安を感じる。シモンズ氏は「この支出はIT部門外で処理されているため、新しい項目の一部はIT予算に組み込まれていない可能性がある」と話す。

 今回の調査によると、70%の企業で少なくとも何らかのIT支出が直接業務部門によってなされており、12%の企業ではその割合が全IT支出の4分の1に上るという。この結果は、ガバナンスの必要性を浮き彫りにしているとシモンズ氏は指摘する。ガバナンスがなければ、「それぞれが独自のシステムを独自に運用」していた分散コンピューティング特有のセキュリティリスク、財務リスク、事業継続リスクと同じリスクを抱えることになる。

 Forrester Researchは、ビジネスの成長を図ったIT投資の比率は増加すると見ているが、2011年のリポートでは、あるデータについて興味深い関係を指摘している。2010年の調査では、大企業のCIOが挙げたIT関連の優先事項として3位に入っていた「モバイル/タブレットアプリケーションの使用拡大」が2011年はトップ5圏外となった。シモンズ氏によると、効率化とコスト削減を再び最優先事項に引き戻した先行きの読めない経済がその要因として考えられると言う。しかし、業務部門のIT支出によって「モバイル化の中心が業務部門に移った」ことが要因の可能性もある。

注:米TechTargetが毎年実施している調査では、タブレット端末、スマートフォン、モバイルセキュリティソリューションが上位3分野を占めている。


 ただし、これは米金融機関のCUNA Mutual GroupでCIOを務めるリック・ロイ氏には当てはまらない。同氏は2011年、CEOの緊密な協力を取り付けた上で、社内のノートPCの台数を劇的に削減する野心的なモバイル端末戦略に着手した。ロイ氏によると、CUNA Mutual GroupではIT部門がテクノロジーの“オピニオンリーダー”になると目されるようになったという。

 「どんな企業でもCIOやIT部門にとって正真正銘の落とし穴があると思う。現行のシステムばかりに投資し、タイムリーに新しい技術を取り入れていかなければ、ユーザーはIT部門を無視するだろう。それはこれまでもリスクの1つだったが、特に現在は誰でも簡単にコンシューマーとしてモバイルテクノロジーを手にすることができるため、このリスクは非常に大きい。私見だが、IT部門は、ユーザーが実質的なオピニオンリーダーになり、その後をもたもたと追従するような地位に甘んじないよう十分注意する必要がある。そのような状況は好ましくないし、付加価値を生まないことは確かだ」とロイ氏は語る。

 シモンズ氏も同じ意見で、新規プロジェクトへのIT予算を業務部門に委ねることは、IT部門を「純粋にテクノロジーインフラストラクチャを管理するだけの役割におとしめる」としている。また、IT予算のベンチマークは、ITの価値を加味しない限り意味がないという。ITインフラストラクチャに1億ドルを投資し、リターンが2億ドルであれば、他社が何をしていようと、よい投資であることに変わりはない。

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