ノークリサーチ調査結果を解説
海外展開する中堅・中小企業が考えるべき「ERP導入 3つのステップ」
これまで国内での利用を想定してきたERPを海外拠点で使う場合、どのような選択肢があり、どのような考えで製品を選択すべきか。ノークリサーチの調査結果からポイントを探る。
日本の人口減少や歴史的な円高など日本企業を取り巻く環境は相変わらず厳しく、製造業を中心に海外展開する企業が増えている。企業が海外に進出する際にはERPなどITシステムの準備も欠かせない。しかし、国内で行ってきたITシステム選定や導入の常識が海外でも通用するとはいえない。ノークリサーチのシニアアナリスト 岩上由高氏は「3つのステップを考えるべき」と指摘する。
ノークリサーチは1月18日、年商が500億円未満の中堅・中小企業を対象にした海外展開とIT活用についての調査結果を発表した。これによると年商300億円以上から500億円未満の企業では約35%の企業が海外に拠点を持ち、何らかのビジネスを行っている。年商50億円未満の中小企業でもその割合は約10%となっていて、多くの企業において海外展開が一般的になりつつある状況が分かる。進出先では中国が40.4%以上と圧倒的に多い。進出予定の国でも中国は28.1%と他国を引き離している。だが、今後の進出予定国ではインドが11.8%、ベトナムが9.9%を占めるなど他国への関心も広がりつつある。
このような状況の中で調査では、海外にビジネスを展開している、または展開予定の企業に対して「海外拠点におけるITインフラの導入状況」を聞いた。「インターネットアクセス回線」などの基本的なインフラから、生産管理、会計管理などのアプリケーションまで導入率を聞いたが、岩上氏は調査結果から3つのステップが見て取れるという。
ステップ2で会計、ステップ3で生産管理を導入
海外展開した中堅・中小企業が最初に導入するのは「PC」や「インターネットアクセス回線」だ。岩上氏はこの段階をステップ1と呼ぶ。調査ではこの割合は60%を超えている。海外拠点を設けてもまだ本格的にビジネスを展開する前で、事前調査を行っている企業がステップ1に多いと考えられる。
2番目のステップは、「会計管理」や「グループウェア/メール」などのアプリケーションの他に、「サーバおよびストレージ」などのハードウェアを導入している段階だ。調査によると対象企業の会計管理の海外拠点での導入比率は49.5%となっている。この段階は企業がオフィスをひとまず開設した段階とみられる。岩上氏は「この段階では現地の会計パッケージなどを使うケースが多い」と指摘する。海外で取りあえずビジネスを開始するには会計パッケージが必要だが、日本のパッケージを導入する時間やコストはないという場合に、現地のパッケージを現地のシステムインテグレーター(SIer)の支援で導入するケースがあるという。
このステップ2の企業はその後、ステップ3として製造業であれば現地で生産を開始し、現地で販売、調達を行うことになる。アプリケーションでいえば、生産管理や販売管理、調達管理の各アプリケーションを使うことになる。調査結果によると、生産管理アプリケーションを海外拠点に導入している企業の割合は、34.0%、販売/仕入/在庫管理アプリケーションは40.1%となっている。ステップ2の企業が今後、生産管理アプリケーションなどを導入することで、この割合は高まる。岩上氏は「ステップ2の企業がその際にどういう選択を行うのかに興味がある」と話す。
「クラウドERPは大きな潮流になっていない」
ステップ2の企業のアプリケーション選択の観点は2つある。1つはクラウドERPか否か、そして現地アプリケーションか否か、だ。1つ目のクラウドERPについては、多くのERPベンダーが海外拠点での利用を想定し、自社のクラウドERPをアピールしている。ハードウェアコストを掛けずに短期間で導入して利用開始できることが特徴であり、コストや期間に制限がある海外拠点での利用には適していると考えられるからだ。
しかし、岩上氏は「IT導入のハードルを下げる1つの手段ではあるが、まだ大きな潮流にはなっていない」と指摘する。ステップ3では生産管理アプリケーションを導入し、販売管理や調達管理と会計管理を連携させていく必要がある。現在提供されている「グローバル対応のクラウドERP」の多くは業務をグローバルスタンダードに合わせることのできる大企業を想定している。日本のビジネススタイルを継承したまま生産拠点として展開し、そこから現地での販売、調達へと発展しつつある中堅・中小企業の海外展開パターンとはギャップがあるといえるだろう。
「自社固有の要件に起因するシステム間連携が不可避である場合は、日本国内のデータセンターに構築されたシステムに海外からアクセスするのも1つの選択肢だ。クラウドはあくまで手段の1つにすぎない。海外展開=クラウド活用と決め込まず、両者をいったん切り離して考える必要がある」
もう1つは特に会計パッケージにおいて、現地製品を使い続けるかどうかという観点だ。中国など特有の商慣習がある国では現地の会計パッケージを使った方が効率的な面がある。しかしビジネスが拡大すると、その現地での財務データを本社の財務データと連結したり、比較する必要がある。その場合、グローバル展開で実績がある大手企業向けのERPや、国産のERPが必要になる。
国産の会計パッケージは国内会計基準への深い理解とIFRSとのコンバージェンス対応の2点をアピールポイントにしている。だが、「IRFS対応=グローバル対応ではない点に注意が必要だ」と岩上氏は指摘する。
「例えば、中国には中国固有のIFRS対応に向けたコンバージェンスの道筋がある。IFRSで全てが解決するのではなく、各国に固有の状況を踏まえた個別対応が必要になってくる。一方で、IFRSでは同一商材は生産地が異なっても原価管理方式は統一しなければならないといったようにグローバルでそろえるべき事項もある」
そのためステップ3に進む企業は「グローバル化と適材適所を同時に実現しないといけない」(岩上氏)のだ。ITシステム全体の効率性を求めるならグローバルでアプリケーションを統一した方が良いのは当然だ。しかし、それでは各国の商慣習に対応できず、現場の効率性が低下する可能性がある。
グローバル展開をする企業ではこれまで本国と海外拠点で別々のシステムを運用する「二層ERP」の考え方が支持されてきた。しかし、岩上氏は二層ERPについて「コスト側の都合で生まれたシステム。業務側の都合を考えた場合に二層ERPで対応できるとは思えない」と指摘する。海外拠点での利用を想定したクラウドERPや国産パッケージは、この二層ERPでの利用を想定していると考えられるが、グローバル化と現地での最適化を同時に達成するのは難しい。岩上氏は「海外展開をする際のベストの製品選択はまだ混然としている」として、ベンダー側からも積極的な提言が必要と話した。
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