“むちゃ振り上司”にこういわれたら【第5回】
「在庫の数値が間違いだらけなので何とかして」といわれたら
在庫管理は「モノ」と「データ」を適切に管理するのがポイント。在庫管理をスムーズに進め、正確な在庫データを把握するにはどのようにすべきなのだろうか? 間違えやすい点と改善の方法を解説する。
製造業など、在庫を抱える業種では在庫の金額情報と数量情報を正確に管理することが至上命題とされる。これらが不正確だと、会社の財務数値にも大きな影響が出てしまう。在庫管理をスムーズに進め、正確な在庫データを把握するにはどのようにすべきなのだろうか? 上司に「在庫の数値が間違いだらけなので何とかして」といわれた場合の対応を説明する。
在庫管理における「モノ」と「データ」
主に製造業では、製品や商品といった目に見える「モノ」を日々管理している。それらは実際に生産した物やサービスで、多くの場合は目に見えて数えられる状態で現物管理されている。これらは会計費目では「製品」「仕掛品」「原材料」などと表現される。
一方、日々の業務の中で大量に発生する「発注」「入庫」「生産」「出庫」といった業務プロセスでは、モノの状態を反映した「データ」が管理される。モノの状態が先に動き、データの状態が後から動くことになる。モノとデータの状態は本来一致するべきだが、さまざまな要因により完璧に同期させるのは難しい。大量の処理を繰り返しているうちに、例えば月末にモノとデータの内容が大きくずれてしまい、在庫情報の実態を正しく示しているのは一体どちらなのかが分からなくなってしまう。
このようなモノとデータのずれを解消するために定期的に行われる作業が「棚卸」だ。月に1回や年に1回など、あらかじめ決められたルールに基づいて、定期的にモノを数えていく。そして在庫のデータと差異があれば修正していく。在庫の「数量」情報を確定するための重要なプロセスだ。
棚卸の方法には代表的なものとして
- リスト方式(リスト化された棚卸表を基に数える方法)
- タグ方式(棚卸原票《タグ》を在庫に貼り付けてタグ情報を集計する方法)
の2種類があるが、扱う在庫の性質や種類に応じて最適な方法を採用する。
在庫を間違う原因
モノとデータの内容がずれてしまう事態はさまざまな局面で起きる。
- 発注:「発注依頼書」に記載する情報を間違う、二重に入力してしまう
- 入庫:入庫した原材料などの納品処理が一部漏れている、誤った数量で検収実績を計上してしまう
- 生産:「製造指図書」に記載された所要量と合致しない原材料が引き当てられてしまう、異なる原材料を使用してしまう
- 出庫:「出庫伝票」の確認が漏れる、出庫伝票の記載と異なる製品を出庫してしまう
- 棚卸:手順通りに棚卸が実施されなかったことから正しい数量を把握できない、差異を突き止められない
いずれも、実際のモノの動きにデータの動きが追い付いていない、あるいは追い付いていても間違った把握をしてしまうことから起き得るエラーである。
在庫の間違いを防ぐためにはどうするか?
では、このようなエラーが出ないように、財務経理部門としてはどのような対策に注意を払うべきなのだろうか?
事前の対策としては、日々の在庫の動きでエラーが出やすいポイントに厳格なチェックポイントを設けること。事後の対策としては、棚卸の手続きをより厳密に実施して、日々の動きの中で出てしまったエラーを完全に消し込むことを目指すことだ。
例えば入庫の段階で誤った数量で検収実績を計上してしまうことを回避するために、納品書と突き合わせるなどチェックを徹底する。出庫の段階で出庫伝票の確認が漏れることを回避するため、ピッキング作業における出庫伝票の確認を徹底するなどの方法が考えられる。
なおERPパッケージソフトウェアなど、取引に関する原始データ(収集直後の未加工データ)が人手を介在することなく会計データまで連携する仕組みを導入することで、ヒューマンエラーの回避にもつながる。必要に応じて活用を検討したい。
棚卸においては、作業そのものをスムーズに進める環境作りが重要だ。普段からモノの整理整頓に努めていつどのようなときにでも特定できるようにしておく、製品と仕掛品の保管場所を明確に分けておく、外部から預かっている在庫など自社の管理下にないものを分離保管しておく、などが有効だ。
さらに、手順通りの棚卸プロセスを徹底させることは必須となる。在庫のカウントは2人一組で行うのが基本だが、「実際に数える」「数えた数量を記録する」「記録した数量をチェックする」という多段階のチェックを通じて、実際に数えた数量情報が正しくデータに反映されるようにしなければならない。このようにすることで、差異が出た場合の原因分析やデータ修正も容易になっていく。
一方では、在庫管理の費用対効果も想定しておきたい。在庫が多くなるほど管理コストも膨らんでいくので、管理対象とする在庫を最適化するためにどうするべきか、数える対象そのものを少なくしていく工夫が肝要である。在庫管理は日々のコントロールをどこまで正確に行うかがポイント。過剰なコストを掛けることなく、効果のある対応を継続的に進めていきたいところだ。
原 幹(はら かん)
株式会社クレタ・アソシエイツ 代表取締役
公認会計士・公認情報システム監査人(CISA)
大手監査法人にて会計監査や連結会計業務のコンサルティングに従事。ITコンサルティング会社を経て、2007年に会計/ITコンサルティング会社のクレタ・アソシエイツを設立。「経営に貢献するITとは?」というテーマをそのキャリアの中で一貫して追求し、公認会計士としての専門的知識と会計/IT領域の豊富な経験を生かしたコンサルティングに多数従事する。
著書に「図解IFRSのきほんがわかる本」をはじめ、翻訳書やメディア連載実績多数。
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