普段から利用するあの店の便利さはどこから来ているのだろうか。大手ピザデリバリーチェーンやスーパーマーケットの事例から、DX実践の学びを探る。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の専門家たちは、組織全体でDXに関する明確なビジョンを持ち、その内容を理解することが必要だと口をそろえる。IT活用はDXというパズルを構成する1ピースに過ぎない。適切なリーダーの配置や人材への投資、企業文化の改善や行動変容の促進など、DXを成功に導くための要素は多岐にわたる。大手企業のDX実践例から、成果を上げる秘策を探る。
Domino’s Pizzaの元シニアバイスプレジデント兼最高データ責任者(CDO)であるデニス・マロニー氏は、同社がDXを成功させた結果、「有名な宅配ピザ屋の一つ」から「ピザを売るEC(Eコマース:電子商取引)事業者」に進化したと考えている。
2008年に株価が急落したDomino’s Pizzaは、メニューを刷新するとともに、デジタル技術を使った「ピザ受け取りプロセス」の効率化に取り組んだ。成果の一つが「Domino's Tracker」というサービスだ。これは顧客が注文した商品の調理開始から、焼き上がり、配達、受け取りまでの進捗(しんちょく)をオンラインで追跡できる。もう一つの成果が「Domino's AnyWare」だ。これはスマートスピーカーやスマートウォッチの音声入力、公式モバイルアプリケーション経由のテキストメッセージなどを使って簡単に注文できる仕組みだ。
Domino’s Pizzaは、実店舗とオンライン運営の強化や商品の品質向上にAI(人工知能)技術を活用してきた。2021年4月には米国で自動運転車両を、2022年7月にはニュージーランドでドローンを使ったピザの配達を開始した。マロニー氏は同社を「デジタル配達の限界を押し広げる企業の先駆け」だと説明する。
ピザの提供に伴う顧客エクスペリエンスを向上させたDomino’s Pizzaは、いわば「ピザエクスペリエンス企業」となった。この成果は同社経営層の尽力によるものだというのが、DX専門家たちの見方だ。同社のDXを成功に導いたもう一つの要素が、IT部門の創設だったという。マーケティング担当者と協力して、既存顧客と新規顧客を引きつける施策を実施する権限を付与されていたのが、同社IT部門の特徴だ。
「ITインフラを正しく整備し、DXを成功に導いた良い事例だ」。コンサルティング会社PSG Consultingのマネージングディレクター、アントニー・エドワーズ氏はそう評価する。「どのようなチャネルを経由しても確実に商品を注文できるようにした結果、デバイスを問わないシームレスなサービスを実現した」(エドワーズ氏)
Capital One FinancialでCEOを務めるリチャード・フェアバンク氏によると、同社は2012年に「ITを利用する銀行ではなく、銀行業務をするIT企業」への転換を目指した。その目標は、パーソナライズした銀行サービスをリアルタイムで顧客に提供することだった。
最新の技術スタックに基づき、Capital One FinancialはビッグデータとAI(人工知能)技術を活用して顧客理解を深めようとしている。パーソナライズされたサービスを提供するために、アプリケーション構築に必要な人材を投入し、クラウドサービスやオープンソースソフトウェア(OSS)を活用した「アジャイル」(小規模な変更を短期間のうちに繰り返すシステム開発手法)開発やDevOps(開発と運用の融合)の経験を積み重ねていったという。
2020年にCapital One Financialは8個のオンプレミスデータセンターを閉鎖し、全てのアプリケーションとシステムをAmazon Web Services(AWS)のクラウドサービスに移行。全ITインフラをクラウド化した米国初の銀行となった。その結果、Capital One FinancialのIT部門とDXチームはITインフラ管理業務から解放され、AI技術によってデータから洞察を得てサービスを提供する「顧客中心の変革」に専念できるようになった。
エドワーズ氏はCapital One Financialを「デジタルに全力で取り組んだ企業だ」と評価する。「2012年時点では、大手金融機関Wells Fargo & Company(Wells Fargoの名称で事業展開)やBank of Americaの足元にも及ばなかった」と同氏は振り返る。だがCapital One Financialは本気でIT企業になるかのように、DXを推進する新しい幹部を登用したという。その結果「DXを通じて若年層の顧客を引き入れることができた」と同氏は説明する。
スーパーマーケットチェーンを運営するWalmartは、買い物をより速くより簡単にすること、そして新たなデジタル体験を顧客に提供することを目標に、DXの取り組みを続けてきた。WalmartはDXの目標を「Eコマース(電子商取引)事業の再構築」から「Eコマース事業を実施する基盤の全面的な再構築」に変更し、予算を投入したという。
戦略的パートナーシップの構築にも取り組んでいる。2017年にはGoogleとパートナーシップを締結し、音声AIアシスタント「Googleアシスタント」を使って買い物ができる“音声対応ショッピング”を実現した。2018年にはMicrosoftとパートナーシップを締結し、AI技術やデータ分析の取り組みを拡大している。
Walmartは、サプライチェーンから販売、顧客サービス、マーケティング、店舗運営に至るまで、あらゆる側面をデジタル化することに一貫して投資し、業務効率とコスト効率を高めてきた。特にサプライチェーンのデジタル化はオムニチャネル(さまざまな接点を通じて顧客とコミュニケーションを取る手法)構築に不可欠な要素だ。この取り組みを通じてオンラインやモバイル、実店舗でのサービス向上に取り組んでいる。
Walmartの経験から学べるのは「基本を正しく理解する必要がある」ということだ。エドワーズ氏はこう語り、「DXに魔法はない」と強調する。「Walmartがやったことは、消費者がAmazon.comを好む要素、つまり『顧客個人にカスタマイズされた配送や、手頃な価格』を実現しただけだ」(同氏)
第3回は、電気自動車(EV)メーカーTeslaのDX事例を紹介する。
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