クラウド時代にネットワークを再評価する
なぜシスコは中堅・中小企業向けブランド「Cisco Start」を立ち上げたのか?(1/2 ページ)
ネットワークが安定していなければ、クラウドもIoTも真価を発揮できない。シスコが中堅・中小企業向けブランド「Cisco Start」を発表したのは、ネットワーク技術の認知普及を目指した“未来への布石”だという。
シスコシステムズ(以下、シスコ)といえば、主に大企業向けの高価格ネットワーク機器を開発・提供するベンダーというイメージを抱く人が少なくないだろう。しかしここ数年の間に同社は、中堅・中小企業向けのIT製品ブランド「Cisco Start」シリーズ、クラウド管理型ネットワーク製品「Cisco Meraki」シリーズなどを市場投入。これまで同社のイメージからは想像しにくかった割引販売キャンペーンなど、新たな販売支援施策も次々と打ち出している。これに伴い、同社のパートナー施策は大幅に変わりつつある。
ユーザー企業だけでなくディストリビューターやリセラーにとっても、かつては高級路線をまい進してきたシスコが、一気に身近な存在になってきたのだ。同社が目指す、新たな市場に向けたパートナー施策とは、どのようなものだろうか。同社のパートナー事業統括、高橋慎介氏に話を聞いた。
注
「ディストリビューター」「リセラー」という言葉の厳密な定義付けはないが、本稿では次のように位置付けている。
- ディストリビューター:幅広いベンダーから仕入れたIT商材を自社在庫として保有し、小売業者やユーザー企業に販売する卸業者。大規模な拡販、流通の役割に軸足を置く事業者
- リセラー: IT商材をベンダー、ディストリビューターなどから仕入れ、ユーザー企業に販売する、大規模な流通経路は持たない事業者。仕入れた商材をそのまま販売するのではなく、他のシステムと組み合わせたり機能を追加したりして付加価値を高めて販売するリセラーはVAR(付加価値再販業者)という
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クラウド・IoTの普及で見直したい、ネットワークの重要性
中堅・中小企業向け市場の開拓に向けたパートナー施策
エンタープライズ向けネットワーク機器市場において、大きなシェアを持つシスコ。これまでは「大手企業向けの高価なハードウェア製品を開発・提供するベンダー」というイメージが強かった同社だが、近年は中堅・中小企業向けマーケットやソフトウェア市場のユーザー企業層を拡大することで、さらなるビジネスの成長を目指している。
ビジネス領域の拡大に伴い、同社のパートナービジネス施策も年々アップデートを続けている。シスコは基本的に直接販売を行っておらず、ディストリビューターとリセラーを通じた間接販売で製品をユーザー企業に届けている。だからこそ同社にとってパートナービジネス戦略は重要な意味を持つ。
「ローエンド製品の市場において当社はこれまで存在感を発揮できていなかった」と高橋氏は説明する。そのため、シェア拡大に向けてCisco Startシリーズをはじめとする中堅・中小企業向け製品ブランドを積極的に展開し始めたのだ。
Cisco Startシリーズは小規模で安価な製品を多数ラインアップしており、中には定価ベースで1万円以下の製品もある。これまで高価なイメージが強かった大企業向けネットワークスイッチ「Cisco Catalyst」からは、デスクトップ向けの低価格な「Cisco Catalyst 2960-Lシリーズ」が登場し、Cisco Startのラインアップに加わった。
シスコは、このCisco Startブランドの製品を日本全国の中堅・中小企業に広く紹介すべく、中堅・中小企業向け市場で実績のあるパートナーとの取引を急速に拡大しているという。
ローエンド市場における中小規模のユーザー企業が、ルーターやスイッチ、無線LANアクセスポイント、セキュリティソフトウェアなどといったIT製品を導入するときには、それぞれ異なるベンダーの製品をディストリビューターやリセラーから調達するのが一般的だった。ただし、このようにさまざまなベンダーの製品が混在している環境では、トラブルが発生した際の調査や対処が極めて煩雑になるというデメリットがある。
LANやWANといった社内ネットワークの不調は、業務の停止に直結する。だからこそ、安定した運用をサービス価値として打ち出すために、Cisco Startシリーズは幅広い製品ラインアップをそろえてワンストップで提供したのだ。「シスコ製品だけで構築したネットワーク環境は、運用もトラブル対応も格段に楽になる。実際にこうした好評が、パートナーとユーザー企業の双方から上がっている」と高橋氏は語る。メリットを一度実感すれば、継続してシスコ製品を使い続けるケースが多いという。「パートナーにとってシスコ製品は、手間が掛からず、長期的に売り上げを確保できるメリットを提供できるといえるだろう」(同氏)。とはいえ、シングルベンダーの環境は、将来的に他社製品への移行が難しくなったり、保守費用の高止まりといった弊害が起きたり、というベンダーロックインのリスクと表裏一体だ。それを警戒するユーザー企業も一般的には少なくないため、パートナーはこうしたユーザー企業への対処も必要になる可能性がある。
中堅・中小企業向けのパートナーは全国各地に散らばっている。そこでシスコはパートナーの数を増やすために、Cisco Startブランドを紹介するイベントや勉強会を全国各地で開催している。その結果、2015年10月時点では60社しかなかったCisco Startパートナーの数は、今や1500社を超えるまでに増えている(2016年12月現在)。SOHO(個人事業主)向けルーターの市場において2015年度は9%にすぎなかったシェアが2016年度には16%にまで成長するなど(IDC Japan調べ)、中堅・中小企業向け市場において着々と存在感を高めつつある。
クラウドやIoT分野においても新たなパートナーを発掘
シスコは、モノのインターネット(IoT)分野における製品/サービスの拡充およびパートナーエコシステムの強化にも力を入れている。あらゆるモノがインターネットを介してつながるIoT時代においては、ネットワーク機器の重要性がより高まることは明らかだ。それに備えて同社は、IoT関連の製品/サービスの普及に注力しているパートナーとの関係を強化しようとしている。
IoTの普及に向けて、シスコが積極的に取り組んでいるのが、製造、スポーツ、医療、文教など特定の業界に特化したスキルを持つパートナーの開拓だ。例えば、工場向け製品/サービスに強みを持つベンダーやシステムインテグレーター(SIer)は、生産設備の制御システムや生産管理システムなどの導入実績は豊富であっても、IoTに欠かせないネットワーク技術まで得意とは限らない。そうした企業はシスコとのパートナーシップを通じてネットワークのノウハウを獲得することで、「顧客企業に対して実効性のある提案や高品質なサービス提供ができるようになるだろう」と高橋氏は話す。使い勝手が簡便なCisco Startシリーズを採用することで、ユーザー企業だけでなくパートナーにとっても、ネットワーク製品の理解を深めるきっかけにしてほしい、という狙いがあるようだ。
もう1つ、同社がパートナーエコシステムの拡大に力を入れている分野が、クラウドだ。「Office 365」や「Salesforce」といったクラウドサービスを業務に採用する企業は増えており、これらのサービス導入支援や運用支援を強みとするベンダーやリセラーも次々と登場している。中にはOffice 365やSalesforceなど個々のアプリケーションに関するスキルは高くても、クラウドサービスの快適な利用に不可欠なネットワークインフラの安定運用に必要なノウハウが十分でないベンダーやリセラーもあるだろう。こうした企業も、シスコとパートナーシップを結ぶことによって、シスコ製ネットワーク機器の運用ノウハウを吸収し、顧客に対する安定したネットワークインフラの提供につなげることができる。
クラウドアプリケーションを快適に利用するためには、高品質なネットワークが欠かせない。高橋氏は「アプリケーションの要件に応じてネットワークインフラを柔軟に組み換えられるSDN(Software Defined Network)の重要性が増してくるのではないか」と予想する。「デジタル技術ニーズの変化にいち早く気付くことができた企業が、これからの新たなビジネスチャンスをつかんでいくだろう。シスコは、より多くのパートナーが新たな領域でビジネスを成長させていけるように支援していきたい」(高橋氏)
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