テクノロジー業界が発信するデジタル変革とデジタルによる既存概念の破壊は脅しの策略だ。企業の製品導入はあくまで顧客重視の戦略に基づいてなされるべきである。
デジタルトランスフォーメーション(変革)は、毛虫がきれいなチョウになるイメージを思い起こさせるかもしれない。しかし、テクノロジー業界はこのコンセプトを「テクノロジーに大量の資金をつぎ込まなければ企業の破綻につながる」という事前警告に変化させている。
マーケティング担当者は、顧客重視の戦略を捨てた熱意のない業界をターゲットにするスタートアップ企業が引き起こした混乱への答えとして、この言葉を編み出している。テクノロジー市場で過剰に使用されるもう1つの用語である、「既存概念の破壊」の最たる例は、タクシー業界でUberが提供しているカーシェアリングアプリケーションだ。
Uberによってタクシー会社の収益は激減した。他の業界がこのような災難に遭うのを避けるには、さらなるテクノロジーへの投資が必要だとサプライヤーは主張する。主要なネットワーク会社のマーケティングメッセージには、自社のソフトウェアとサービスを購入しなければ、スタートアップ企業が生み出す既存概念の破壊の影響が及びかねないという恐ろしい予測を含めているところもある。Cisco Systemsもそうした企業の1つだ。
2015年、当時CiscoのCEOを務めていたジョン・チェンバース氏は、同社のカンファレンスに出席した顧客に対して、ネットワークを全面的に見直して同社の製品を購入し、これから誕生するUberのような企業の一歩先を行くことを強く勧めた。
「これは生き残りをかけた戦いだ」(チェンバース氏)
テクノロジー業界のマーケティングにおいてデジタル変革は、ベンダーが宣伝する最新テクノロジーを購入することによって生き残ることと同義になっている。しかし、生き残るために変ぼうを遂げる必要はなく、新しい製品を購入しても成功が保証されるわけではない。結局のところテクノロジーは、企業が顧客を獲得して商品を販売するための戦略を実行する一助となるツールにすぎないのだ。
そのため、企業は不安をあおるマーケティングを無視し、顧客重視の戦略に専念するのが望ましい。顧客を知ることで、企業は、購入者が望む製品とサービスを生み出すのに役立つ新しいテクノロジーへと導かれるだろう。
例えばある消費財企業は、「Facebook」や「Twitter」などの顧客が好む仮想空間で顧客と交流するためのソフトウェアに数百万ドルもの資金を投資している。
多くの人にとってモバイルデバイスはPCの代替デバイスとなっている。そのため、企業は、テクノロジーを活用したスマートフォンやタブレット向けの販売戦略を立てている。
メーカーは、製品に付随したサービスを提供し、将来のアップグレードに適用できる有益な情報を収集する。そうしたインターネット対応の製品開発は、顧客重視の戦略に基づくものだ。2017年3月中旬に米シリコンバレーで開催されたIDCのカンファレンス「IDC Directions 2017」では、同社が実施したある調査結果が公開された。その調査によると、2020年までに、「Global 2000」に名を連ねる企業の半数が、デジタル化した製品とサービスを作る能力に頼って事業を行うことになるという。
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