クラウドへの移行を通して企業の収益を高めるには、綿密なIT戦略が不可欠だ。移行を急ぎ過ぎた結果、思わぬ代償を払わされた企業の例に学ぶべき教訓とは何か。
企業がシステム設計や移行に当たってクラウドを最優先する、いわゆる「クラウドファースト」は、新たな定説になりつつある。さまざまな規模の企業が、現場からクラウドへ資産を移行している。コスト面のメリットもさることながら、人件費やハードウェアへの投資を行わずして最先端のテクノロジーを利用できる点で、クラウドは多くの企業を引き付けている。
ただし、クラウドさえ導入すれば企業の未来が明るくなるわけではない。クラウド導入に不向きな企業もあることを示す事例もある。クラウドから従来のデータセンターにリソースを戻す羽目になった企業や、パブリッククラウドの利用を諦めてプライベートクラウド環境を構築せざるをえなくなった企業も存在する。
クラウドコンピューティングの効果が薄い場合や効果が全く現れない場合もある。専門家によれば、その原因はパブリッククラウドモデルを容易に当てはめることができない状況に付随する限定的かつ特殊なものだという。「目的、自社のニーズ、クラウドの機能を理解すれば、クラウドの導入は確実に成功する」と専門家はアドバイスしている。
米オハイオ州デイトンに本拠地を置くデータサービス企業Teradataでクラウド戦略、導入部門のディレクターを務めるマーク・クラーク氏は、「企業からクラウドに対する失望の声をよく耳にする。その原因は、適切な準備をせずにクラウドファーストポリシーに踏み切った企業側にある」と話す。
「企業側にクラウド移行の理由を尋ねると、『クラウドに移行するように指示されているから』という答えが返ってくることは珍しくない」と、同氏は補足する。
「驚くべきことに、そうした企業は、クラウドファーストポリシー採用の理由を従業員にきちんと知らせていない。従業員の大半は、明確な理由も分からないまま、クラウド移行にまい進している」(クラーク氏)
「やみくもにクラウド移行するのは、決して褒められたことではない。パブリッククラウドプロバイダーを1社に絞ろうとする企業の多さも、状況を悪化させている。1社のプロバイダーからクラウドを導入する唯一のメリットは、財務や資材調達などの業務を簡略化できることだ。問題は、パブリッククラウドがあらゆる状況で複数のアプリケーションを等しく処理するようには作られていない点だ」とクラーク氏は指摘する。
例えば、ビジネスアプリケーションの中には、計算能力を特に多く消費し、インフラを圧迫するものもある。「クラウド向きではない作業の例を数多く目にしてきた」とクラーク氏は語る。
1つ例を挙げよう。米国のある大手メーカーでは、オンプレミスのエンタープライズデータウェアハウスを何年も使用していたが、新たに特定の1社によるパブリッククラウドへ移行する決定が下された。同社は、既にそのパブリッククラウドにWebアプリケーションと電子メールを移行していたため、データウェアハウスの移行プロセスも変わらないと考えていた。しかし、数週間のテストを経て、クラウド移行がむしろ同社システムのパフォーマンスや信頼性を低下させてしまうことが分かった。
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