従業員との新しいコミュニケーション方法を目指して
クレディ・スイスが仮想エージェント導入で得た3つの教訓
クレディ・スイス(Credit Suisse)の幹部が、同行初の仮想エージェント「アメリア」の導入過程で学んだ教訓を語る。
ジェニファー・ヒューイット氏がクレディ・スイス(Credit Suisse)グループにおいてサービスデスクの刷新を任されたとき、最初に考えたことの1つは、「どうすればチャットを、従業員とサービスデスクエージェントの新しいコミュニケーション方法として導入できるか」だった。
同行のデジタル&コグニティブサービスディレクターを務めるヒューイット氏は、市場調査を行い、機械学習を利用して構築されたIPsoftの仮想エージェント「アメリア(Amelia)」に投資することを決めた。この仮想エージェントは、新しいコミュニケーションチャネルを開く以上のことができると、同氏は考えた。アメリアが単純で反復的なタスクを自動化することで、サービスデスクエージェントが複雑な問題に集中する時間ができると見込まれたからだ。
それから18カ月後、アメリアの運用は軌道に乗り、ヒューイット氏はこれまでの道のりを振り返ることができるようになった。以下では、同氏が学んだ3つの教訓を紹介する。
1. まずbotに関するビジョンを持つ
ヒューイット氏はまず、人間のエージェントが10分間で処理するビジネスプロセスを洗い出し、その主要な10件をそれぞれ分解した。さらに、場合分けを用いて、それらを「Microsoft Visio」で作成するような図やフローチャートで表した。続いて、経験豊富なサービスデスクエージェントにこの作業を行ってもらった。だが間もなく、アメリアを効果的に機能させるには、追加のスキルセットが必要であると分かった。
「私は取り組みを進める中で、これからもサービスデスクの専門家のみがアメリアの頭脳の育成を主に担当すると、アメリアの受け答えがIT担当者のようになるだろうということを理解した。ユーザーの立場になってみると、IT担当者は、ITについてのコミュニケーションのやり方を分かっていないことがよくある」(ヒューイット氏)
こうした認識から、ヒューイット氏は、「より人間的で、ユーザー指向の」専門家を探した。そして神経科学者および数理言語学者と契約し、両者がサービスデスクエージェントと協力して、アメリアの設計と語彙(ごい)の構築に取り組むようにした。
両者は大きな貢献を果たしたため、ヒューイット氏は正社員として採用した。同様のスキルを持つ人材を増やすことも検討している。だが、こうした人材投資は、全ての企業が行う必要があるとは限らないと、同氏は強調する。
「私は、クレディ・スイスのためにアメリアをどのようなものにしたいかについて、非常に強固なビジョンを持っていた。アメリアが人間的で、顧客エクスペリエンスを高めることができるようにしたかった。アメリアを導入している他社の人と話すと、彼らはそれを理解し、私が導入の取り組みの中で、専門家を迎えた理由も分かってくれる。しかし、だからといって、こうしたやり方が彼らのビジョンや、彼らが組織のために目指しているアメリアのパーソナリティーと、常に一致するとは限らない」(ヒューイット氏)
2. 適切なメッセージを打ち出す
また、ヒューイット氏は当初、行内でアメリアのプロモーションのために、「『当行に人工知能を導入します』と張り切って宣伝して回った」という。だが、同氏は間もなく、この戦術ではうまくいかないことに気付いた。
「人々の間では一般的に、分からないものに対する抵抗がある。人工知能は、まさにそうしたものの1つだ。PR戦略を変えないと、導入促進に逆効果になると思った」(ヒューイット氏)
そこでヒューイット氏は軌道修正し、アメリアが新しいコミュニケーションチャネルを開くことで、従業員のためにいかに実際の問題を解決するかを強調するようになった。同氏は、「従業員は手助けが必要になったら、サービスデスクに電話をかける代わりに、チャットができるようになる」と説明した。また、アメリアが最初の連絡窓口として、チャットによる依頼をふるいにかけ、解決できるものは解決し、解決できないものは人間のエージェントに引き継ぐことも説明した。
どのような技術も、社内に定着するには、従業員の受け入れが重要になる。仮想エージェントのような人工知能(AI)技術ではなおさらだ。アメリアと従業員のやりとりは、貴重なデータをもたらす。それはシステムの改良や強化、トレーニングの継続に使用されると、ヒューイット氏は説明する。
実はヒューイット氏は、アメリアの性能を高めるために、「顧客向けエージェントを開発している人々にはお勧めしないこと」をしたという。同氏は、アメリアがユーザーの依頼を理解できる割合が23%にとどまることを知りながら、アメリアを展開した。
「話し掛けてくるユーザーにアメリアが対応できるように、どれだけビジネス問題を設計したつもりでも、アメリアの性能を実際に向上させることができるのは、本番稼働を開始し、実際に会話をするようになってからだ」(ヒューイット氏)
アメリアと従業員の会話は録音される。そのデータはシステムにフィードバックされ、機械学習のトレーニングに使用される。ヒューイット氏がアメリアを導入して5カ月後、アメリアがユーザーの依頼を理解できる割合は83%となった。現在では、87%となっている。「この数字は、これ以上はあまり良くならないと思う。人と人が話す場合を考えても、われわれは会話のコンテキストを100%理解しているわけではない」と、ヒューイット氏は語る。
3. 期待の管理に備える
アメリアは進化してきたものの、クレディ・スイスの7万5000人の従業員全員がこの仮想エージェントを心から受け入れているわけではない。「このコミュニケーションチャンネルのスタートを受けて、アメリアは何でもできるという期待も生まれてしまった」と、ヒューイット氏は語る。
ヒューイット氏は従業員に、アメリアにできることには限界がある理由を何度も説明した。同氏はこの仮想エージェントを、まだ物事を教える必要がある赤ちゃんになぞらえ、「例えば、従業員はあるプロセスを重要と考えるかもしれないが、アメリアは、組織全体で最大のインパクトをもたらす方法が分からないと、対応できない」と解説する。
「こうしたことから、アメリアへの評価は非常にまちまちだ。アメリアは行内でよくやっていると思う。私は機能面で多くのフィードバックを得ており、従業員はこの技術にさまざまな機会を見いだしている。だが、人々の期待を管理するのは常に難しい」(ヒューイット氏)
またヒューイット氏は、従業員の間には、「AIが業務を自動化することで、職がなくなるのではないか」という不安があることも認識している。同氏はサービスデスクエージェントと話す際に、アメリアは自動化ツールではなく、オーグメンテーション(拡張)ツールだと説明しているという。
「私は、『アメリアは、インテリジェントオーグメンテーション(IA)のためのAI、つまりIAのためのAIだ』と話している。この言葉で言いたいことは、『AIは機械に関するもの、そして技術に関するものだが、インテリジェントオーグメンテーションという考え方を組み合わせることで、人と機械が連携して、大きな力を発揮する』ということだ」(ヒューイット氏)
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