使い方を誤れば判断ミスを増やす恐れ
期待にはまだ届かない人工知能(AI) それでもビジネスに導入するには
人工知能(AI)技術は万能薬ではない。ビジネスにAI技術を利用するのであれば、その限界を知っておく必要がある。AIを有効活用するためのシステム構築のポイントについて説明する。
人工知能(AI)技術への期待は非常に高い。人々はAIが文明を変えると予想している。GoogleのCEOサンダー・ピチャイ氏は、2018年の始め、AIが電気や火の発見よりも大きな影響を及ぼすことを期待していると話した。
長い目で見れば、ピチャイ氏のAIへの予測は実現するかもしれない。しかし実際には、ビジネス運用へのAI技術の影響についての企業の期待は沈静化している。
特にこの分野の専門家は、現在のAI技術の限界を意識するよう呼び掛けている。AI技術に頼り過ぎると、ビジネス上重大な問題につながる恐れがあるという。
「現状データ分析へのAI活用について過剰に宣伝されているが、データの利用方法に注意しなければならない」と話すのは、Liberty Mutual Insuranceで企業戦略および研究部門のマネージングディレクターを務めるディクシャ・ジョシー氏だ。
機械学習はビジネスの指針にならない
米ボストンで開催された「AI World Conference and Expo」のパネルディスカッションに参加したジョシー氏は、次のように話した。AIシステムのアルゴリズムは、データに潜む興味深い洞察を明らかにする。こうした洞察は、以前のビジネスでは知ることができなかった。しかしAIシステムはその洞察を、ビジネスにどのように生かすべきかは教えてくれない。
ジョシー氏が話題にしたのは、現在多くのビジネスで自然言語処理への関心が高まっていることだ。こうした企業は、自然言語処理を使って、ソーシャルメディアに書き込まれたコメントを掘り起こし、自社ブランドに対する一般の人々の感情を判断し、理解している。これは機械学習の優れた応用事例で、以前なら利用できなかった理解の方法をビジネスにもたらす。
理解したことをどのようにビジネスに生かすかはあまり明らかではない。こうした曖昧さが、ビジネス運用へのAI技術の影響を限定させる可能性がある。
「AIシステムはパターンを特定して提示することで、自社の戦略の助けにはなる。しかし顧客の苦情に応じて毎回自社の戦略を変更することはできないように、AIシステムも戦略を生み出すことはできない」(ジョシー氏)
まだ分からないことが多いアルゴリズム
ここ数年、機械学習、特にディープラーニングは大きく進化している。データのトレーニングについては、まだ根本的な制限がある。
アルゴリズムが予測を行うには、ある現象のサンプルが数百個、場合によっては数千個必要になる。ただしあまり起こらない事象とその影響をビジネスリーダーが把握していなければ、AIも同様にその影響を理解しない。
Dun&Bradstreetでチーフデータサイエンティスト兼シニアバイスプレジデントを務めるアンソニー・スクリフィニアーノ氏は、インタビューで次のように語った。「AI技術についての迷信が幾つかある。迷信の1つは、自分が理解していないことを、AI技術でなら解明できるという考えだ」
スクリフィニアーノ氏が挙げたのは、英国のEU離脱(Brexit)が世界中の海運業や貿易業に及ぼす影響を予測しようと試みた、サプライチェーン企業の例だ。機械学習アルゴリズムにBrexitが及ぼす影響を予測するよう求めても、有益な答えを返すことはできない。なぜなら、以前に同じような状況が起きたことがないためだ。アルゴリズムのトレーニングに利用できる、意味のあるデータもない。
ただしこのサプライチェーン企業が、サプライチェーン内の特定の状況や、特定の変化に対してどのように対処できるかについて知りたいならば、関連性のあるトレーニングデータが存在する可能性が高いため、機械学習が役立つ。
AIでは、この種の具体性が依然重要だ。スクリフィニアーノ氏によれば、大きく幅広い質問の答えを得るためにAI技術の導入を検討する企業が多いという。しかしこうしたアプローチは、多くの場合、ビジネスの状況に関する既存の知識に固執し、誤解を強めるだけに終わってしまう。モデルのトレーニングに使用する学習用データの中身に、実際に起きたことよりも人間の仮定の方が多いためだ。
「データサイエンスとAI技術は、ミスを犯す速度を加速する恐れがある」と同氏は言う。
大きく考え、小さく始める
AI技術は遠い将来大きな変化をもたらす可能性はある。しかしAI技術がビジネスに及ぼす影響については、現実的に考える必要がある。ビジネスへのAI技術導入は「大きく考え、小さく始める」べきだと話すのは、ソフトウェアベンダーdeepsense.aiで最高技術責任者(CTO)を務めるロバード・ボーガッキー氏だ。
ボーガッキー氏は保険業界の顧客を例に挙げる。この顧客はコンピュータビジョンを利用して保険金請求に添えられた写真を分析し、写っている被害が請求に一致するかどうかを確認するソフトウェアの作成を、同氏のチームに依頼したという。
理論的には現状のディープラーニングアルゴリズムで実現できる。保険会社は保険金請求に対応するコストを大幅に削減できるため、プロジェクトとしては検討する価値がある。しかしこのソフトウェアには、入手の難しいトレーニングデータが多数必要になる。
そこでボーガッキー氏は、写真に関連するメタデータタグを分析して、その写真が保険金請求の対象となる場所で撮影されたことを確認する小規模な取り組みから始めることを提案した。この取り組みは技術的には複雑ではないが、詐欺を見つけるというビジネスの観点では非常に効果がある。「これが、現時点での機械学習ができる仕事だ」(ボーガッキー氏)
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