小売業界におけるクラウドビッグ3の戦いは熾烈(しれつ)を極め、興味深い局面を迎えている。ダントツでリードするAWSも、この市場では弱点を抱えている。AWSはなぜ小売業者に嫌われるのか。
Amazon、Google、Microsoftは全業界で、著名顧客の獲得に努めている。この大手3社の競争が特に面白くなりつつあるのが小売業界だ。3社はいずれも大手小売業者をレファレンスカスタマーとして複数抱えている。
「Google Cloud Platform」(GCP)がIT資産を支える小売ブランドには、Ocado、Lush Cosmetics、Target、PayPalなどがある。「Microsoft Azure」のレファレンスカスタマーにはMarks & Spencer、ASOS、Dixons Carphoneが名を連ねている。
「Amazon Web Services」(AWS)も小売業者の獲得に後れを取っていない。食料品店のSainsbury'sやNisa RetailがAWSを利用していることが知られている。複数のブランドを扱うオンライン小売業者のShop Direct、大衆向けのファッションブランドRiver Island、ワインの小売専門店Majestic WineもAWSユーザーだ。
だが、こうした小売業者は全て規模の点でAmazonには劣る。AWSにとって、Amazonは小売業者としてだけでなく、全体として見ても最大手の顧客だ。
Amazonとの関係が近過ぎるため、AWSには安心してアプリケーションやワークロードを任せられないと懸念する小売業者もある。米国大手小売業者Walmartは、Wall Street Journalに掲載されたレポートについて説明するため、2017年にある声明を発表した。それは、同社のアプリケーション、ワークロード、データをAWSでホストしないようテクノロジーパートナーに警告するというものだった。
この声明には次の記述がある。「当社のサプライヤーには、自社のニーズや顧客のニーズに合ったクラウドプロバイダーを利用する権利がある」
「だが、当社が最も重要なデータを競争相手のプラットフォームに配置したくない場合があるのも当然だ」
Amazonも声明を発表し、Amazonのクラウド部門が「Amazonの小売り部門を何らかの形でサポートしている」という「誤った」思い込みに基づき、AWSを使用しないようサプライヤーを「脅そうと」している疑いがあるとWalmartを痛烈に非難した。
Walmartはその後、AWSの競争相手であるMicrosoftと数年にわたるクラウド契約を結んだ。オープンソースのプライベートクラウドプラットフォーム「OpenStack」のレファレンスカスタマーとしても同社の名前が挙がっている。
シンガポールを拠点とするAWSのレファレンスカスタマーTrax Retailは2019年1月、契約クラウドプロバイダーにGCPを加えることを発表。そこで利益競合に関する懸念に言及した。
同社が開発するデータ分析ソフトウェアは、小売業者が店舗のレイアウトを設計したり、店内のモバイル端末から得た画像データで在庫レベルを管理したりすることを可能にする。
Trax Retailで南北アメリカ大陸担当責任者を務めるデイビッド・ゴットリーブ氏は、2019年1月初めに米ニューヨークで開催されたNational Retail Federation(NRF:米国の小売業界団体)のカンファレンスで本誌のインタビューに次のように語った。「一部の小売業者は、Amazonを基盤として構築した技術エコシステムの導入に消極的だ。これは小売業界独特の傾向だ。小売業者にはAmazonと顧客を取り合っているという自覚がある」
同カンファレンスで同社は新製品「Trax Retail Watch」を初公開した。同製品は、商品棚に固定可能なカスタム設計のIoT(モノのインターネット)カメラが付属し、全商品の在庫レベルを監視できる。この製品を設置すれば在庫状況についての洞察をリアルタイムに得ることができ、データはGCP内で処理されるという。
「当社には、消費財(CPG:Consumer Packaged Goods)メーカーと直接取引をする大規模フランチャイズがある。その展開は以前から全てAWSで行ってきた」
「CPGメーカー向けに、これらのプログラムをAWSに展開することも可能だった。だが他のパートナーを検討した結果、GCPとの関係が当社にとって最も納得のいくものだった」(ゴットリーブ氏)
第2回(Computer Weekly日本語版 3月20日号掲載予定)では、AWSから顧客を奪うGoogleとMicrosoftの動向を紹介する。
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