医療機関が実感 電子カルテと連携する「待機手術の優先順位評価ツール」の価値COVID-19と待機手術【後編】

待機手術の再開に向けたスケジュール調整のために、ある米国医療機関は電子カルテと連携する「手術の優先順位評価ツール」を利用している。このツールがもたらした成果とは。

2020年11月12日 05時00分 公開
[Makenzie HollandTechTarget]

 前編「医療機関はコロナ禍の『手術日程の大幅変更』を電子カルテでどう乗り越えたか」で紹介した米国の医療グループValley Healthと同様に、デューク大学(Duke University)傘下の医療グループDuke University Health Systemも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、待機手術(注)のスケジュール調整プロセスに苦慮していた。

※注 事前に手術計画を立てて、全身状態を精査した上で実施する手術のこと。対義語は緊急手術。米国ではCOVID-19のパンデミックに対して外科系医学会が待機手術の暫定的な中止を推奨していた。

電子カルテと連携する「待機手術の優先順位評価ツール」の必要性

 Duke University Health Systemも当初は紙ベースで、待機手術の優先順位付けシステムを独自で構築した。このシステムは外科医が患者をレベル1〜3に分類する。レベル1の患者は1週間以内に手術が必要であり、レベル2は1カ月以内、レベル3は1カ月以上待機できることを表す。同グループの麻酔科臨床業務部副委員長であり医学博士のグラビン・マーティン氏によると、過去には数日から数週間にわたって、ICU(集中治療室)がCOVID-19の患者とそれ以外の患者で満床になったことがあった。だからこそ待機手術用のスコアリングシステムを用意することが極めて重要だったのだ。

 「全てを素早くシャットダウンしたと思ったら、すぐに再開し、今度は前よりも手術体制を強化しなければならなくなった」とマーティン氏は説明する。このことが事態をますます難しくしていたと同氏は考えている。「真っ先に対応すべき患者をまず正しく選ぶ必要があった」(同)

 Duke University Health Systemで整形外科および脊椎外科を担当する医学博士メリッサ・エリクソン氏は「待機手術の優先順位付けで厄介だったのは、紙ベースのプロセスが非効率だったことだ」と話す。米国の電子カルテ(EHR:電子健康記録)ベンダーのEpic Systems(以下、Epic)が、この手作業のプロセスをデジタル化したツールをEHRに組み込んだことによって、状況は一変した。「EHRを活用してデータドリブンになり、業務が高速化した。全てが手作業だったときは非常に面倒だった」とエリクソン氏は話す。

 Epicで臨床情報学部門のバイスプレジデントを務めるクリス・マスト氏は、EHR内に収集したデータをまとめ、各患者のスコアを算出するプロセスをツールとして開発するのは「簡単だった」と言う。

 待機手術の優先順位スコアリングをツール化し、プロセスを自動化することで、医療機関はスタッフを有効に活用できるようになった。スコアリングツールをEHRに組み込んだことで、スコアを使って最優先に支援すべき患者を把握できる。「治療に当たるチーム、ケアマネジャー、手術スケジュール管理者は一丸となって、効率的に患者を支援できるようになった」とマスト氏は話す。

 Duke University Health Systemのマーティン氏にとって、スコアリングツールは待機手術の優先順位を付けるために今後も重宝するものになるだろう。特に医療機関は、今後COVID-19とインフルエンザが同時流行することで起こる事態を警戒しているためだ。

 マーティン氏は「今のところ、状況は良好だ。それほどたくさんの患者のスケジュールを組み直さなくても済んでいる」と述べながらも、今後も注意深く事態を見守る考えだ。同氏は例年のように冬の風邪やインフルエンザがはやり出した際の影響を懸念している。病床管理に大きな影響を及ぼすからだ。「もしものときは、この優先順位付けスコアリングツールが大いに役立つだろう。EpicのEHRに組み込まれたおかげで、本当に簡単に利用できるようになった」(同氏)

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