臨床時の意思決定支援にAI技術を活用する動きは、コロナ禍で急速に広がったわけではない。ただし幾つかの取り組みは進み、臨床医療にAI技術を使う可能性と難しさが少しずつ浮き彫りになってきた。
学術医療センターのNewYork-Presbyterian Hospital(ニューヨークプレスビテリアン病院)は、人工知能(AI)技術を導入した当初は、数値化しやすくリスクも少ない、臨床医療以外の用途で利用していた。中でも収益サイクルの管理や、臨床医療に関する異議申し立てプロセスの事務処理については一定の成果を挙げている。同機関の変革部門でディレクターを務めるビシャール・シス氏は「臨床以外ならAI技術の価値を数値化できるものの、臨床用途で価値を数値化するのは難しい」と話す。前編「病院がコロナ禍の『AI』活用を数百万ドルの診療報酬につなげられた理由」に続き、後編となる本稿は、臨床医療でAI技術を使うことの難しさを考察する。
シス氏によると、臨床医療の意思決定支援にAI技術を取り入れるに当たっては、規制の輪をくぐり抜けることが一つの課題になる。AIアルゴリズムがある提案にたどり着いた経緯を説明し、そうした提案の曖昧さを排除する方法を見つけることが難しい、という課題もある。医療機関UnitedHealth Groupでデータサイエンスおよび機械学習部門のバイスプレジデントを務めるイーラン・カジ氏は「診断行為における意思決定支援にAI技術を使用するには、信頼を築き、最終意思決定者としての臨床医の役割を維持しなければならない点が課題となる」と話す。
医療業界と他の業界では、AI技術の利用にさまざまな違いがある。その一つは「命を預かっている」という紛れもない現実だ。「既存の全ての規制圧力と、イノベーションとの間でバランスを取り続ける方法を見つけ出さなければならない」(カジ氏)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が臨床現場でのAI技術利用を後押ししたり、急成長させたりすることはなかった可能性がある。だがAI技術は、既にその価値が実証されている分野では強い影響力を発揮した。
AI関連処理向け半導体チップメーカーGraphcoreで機械学習エンジニアを務めるマーク・サローフィム氏によると、同社はMicrosoftと提携し、胸部エックス線写真を分析して患者がCOVID-19に感染しているかどうかを判断できる機械学習モデルを構築したという。このように非常に高密度の画像を処理する大掛かりな機械学習モデルは「トレーニングするにも、実際に予測を得るにも時間がかかる場合がある」とサローフィム氏は指摘する。同氏によると、Microsoftと提携したプロジェクトでは、以前ならモデルのトレーニングに1週間はかかっていたが、それが数時間で完了するようになった。
胸部エックス線写真のような特定の事例の他に、AI技術はコロナ禍の臨床時の意思決定支援に有意義な役割をなかなか果たせずにいる。カジ氏によると、課題の一つは「検査プロトコル(あらかじめ定めている検査の手順や設定など)の変更」だ。結果として州ごとにデータ収集の一貫性が失われており「機械学習にとっては悪夢だ」と同氏は述べる。
コロナ禍における臨床時の意思決定支援にAI技術を利用する場合、問題となるのは「データ収集用に適切な公衆衛生戦略がないことだ」と、医学博士のアンソニー・チャン氏は語る。チャン氏はChildren's Hospital of Orange County(オレンジ郡小児病院)の研究組織であるSharon Disney Lund Medical Intelligence and Innovation Instituteで、チーフインテリジェンスおよびイノベーションオフィサーを務める。
「AI技術の利用には、州間で一貫した臨床試験とデータ収集が必要だ」とチャン氏は指摘する。COVID-19との戦いでは、大規模な公衆衛生戦略は防具となり、AI技術はウイルスに対する武器の役割を果たす。COVID-19のパンデミック(世界的大流行)を収束させるには、その両方が欠かせないと同氏は主張する。
コロナ禍におけるAI技術利用を難しくするもう一つの問題としてチャン氏が指摘するのは、パンデミックが非常に複雑だということだ。「予測が非常に難しく、データサイエンスだけで把握するのは難しい」(同氏)
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