多くの企業が失敗している「AIの収益化」を成功させる方法AIの価値【前編】

多くの企業が、AIの本格導入やAIによる財政的な利益獲得に成功していない。成功企業と失敗企業の違いとは何か。AIから利益を得るには何が足りないのか。

2021年05月10日 08時00分 公開
[Cath EverettComputer Weekly]

 マサチューセッツ工科大学が出版する「MIT Sloan Management Review」と経営コンサルティング会社Boston Consulting Groupが実施した共同調査によると、AIを何らかの形で扱う組織は増えているものの、AIを本格的に導入して大きな利益を得ている組織は極めて少ないという。

 調査対象の経営者、経営幹部、学識者3000人のうち、現在AIを試験運用またはデプロイしている割合は57%に上る。59%はAI戦略を既に考案しており、70%はAIによってビジネス価値を生み出す方法を理解していると考えていた。

 この調査結果のレポート「Expanding AI's Impact With Organizational Learning」(組織的学習でAIのインパクトを拡大する)は、AIで財務上大きな価値を生み出している企業は10社に1社しかないと指摘している。

 AIの基礎を正しく理解するだけ――つまり適切なサポートデータ、技術、スキルを適所に配置し、適切な戦略を用意するだけでは不十分であることが判明した。それだけで大きな利益を得た企業は5社に1社にすぎなかった。

 基礎を正しく理解した上で事業に必要なAIを構築すれば成功を示す数値は上がるが、それでも39%にとどまる。財務上の価値を生み出すには次のような秘訣(ひけつ)があると考えられる。

  • 機械が自律的に学習するだけでなく、人間が絶えず機械に教え、人間も機械から絶えず教えを受ける
  • コンテキストに応じて人間と機械が相互に関わり合う方法を幾つも考案する
  • AIを利用した結果として、組織全体で学んだ内容に応じて幅広くプロセスを変える

 Infosys Consultingのデービッド・セマク氏(共同経営者でAIおよび自動化部門のヨーロッパ、中東、アフリカ担当責任者)も、AIの多くは財務面での貢献が非常に低いとする意見に同意する。その一因の多くは「AIがまだ実験段階にある」ためだという。つまり企業全体ではなくごく狭い範囲にデプロイしているものが多い。

 「AIには多額の投資が必要だ。サイロの中で取り組むだけでは規模の経済は得られない。相乗効果を生かすこともできず、コスト上のメリットも生じない。つまり、桁違いのコストがかかるビジネスモデルになることが多い」(セマク氏)

 もう一つ重要な問題がある。それは、大半の企業がAIの使い方を「誤って」いることだ。新しい収益の流れを生み出すことを目的とせずに、内部プロセスや運用手順の効率向上に集中している。

 「AIには相応の投資が必要なため、プロセスの効率向上と最終損益を重視するかどうかに企業は苦慮している。新しい事業を生み出し、高水準の成長を図るためにAIを活用することに重点を置いている企業は長期的なメリットを享受し始めている」とセマク氏は語る。

 とはいえ、IT部門でも事業部門でも人々が「変化への抵抗と、自分の仕事がAIに奪われるのではないかという懸念から、思考を狭めている」ことは問題だと同氏は補足する。

 「つまり、人間と機械の相互作用が不十分なだけでなく、適切で戦略的な思考やアプローチを導入していない。事業戦略、業務の変化、潜在的なディスラプション(創造的破壊)を恒久的に支えるためにAIが何を可能にするかを人々が実際に理解していないところに問題がある」

 TechMarketViewのアンジェラ・イーガー氏(リサーチディレクター)によると、AIを導入するには高い習熟度が必要だが、英国のほとんどの企業は習熟度が「かなり初期段階にある」ことも懸念事項の一つだという。

 AIを導入する企業が抱える主な課題は、データ、そのデータのクリーンさと正確さ、そしてそのデータがどの程度「目的に沿っている」かだ。この場合の重要な問題は、適切なデータモデルを開発してトレーニングするには時間と労力を要することだ。役立つツールの少なさが特に問題だ。ここで真価を発揮し始めているのが「MLOps」だ。

 「現時点での大きな障害は、AIを運用可能にし、運用環境に投入して、その環境内でAIの妥当性を維持する方法だ」(イーガー氏)

 データモデルを作成する際は、データが「新鮮かつ適切」であり、適切にクリーニングされていることが重要だと同氏は説明する。

 「だが、データモデルのトレーニング方法、運用中にモデルを変更する方法、デプロイ後にそのライフサイクルを管理する方法を把握することも必要だ。しかも、それは一度限りのことではない。データは絶えず変化する。そのため、データがビジネスに適切な成果をもたらしていることを絶えず確認し、適切な成果をもたらしていない場合はすぐにデータを変えなければならない」(イーガー氏)

 そのためには、適切なデータにアクセスできるだけでなく、技術レベルでもより一般的なデータ分析レベルでも、適切なスキルセットが必要になる。特に、ビジネスユーザーを教育して可能性のあるユースケースを理解できるように支援するため、技術的なイニシアチブと並行してスキルアップも必要になる可能性がある。

 変革への恐れや抵抗感を従業員が克服できるように、もっと幅広い変更管理イニシアチブの一環として取り組む必要もある。同じように重要なのは、企業全体にまたがる権限を有するAIの「センターオブエクセレンス」、つまりAI部門を設立することだ。そこから、さまざまな事業部門間で生じる相乗効果を監督することが規模の経済につながる。

 「突き詰めれば、これは単なる技術プロジェクトではない。文化に変化を生み出すことが重要だ。つまり、人々を最優先に扱うことが絶対的な鍵になる」(セマク氏)

後編では、AIを利益に結び付けた2つの事例を紹介する。

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