米国患者を対象にした調査によれば「遠隔医療システムの使いにくさ」が普及を阻む一因になっている。医療機関と医療ITベンダーは「オンライン診療受診者への技術サポート」にどう向き合うべきか。
前編「米国人がPCよりもスマホで『オンライン診療』を受けようとする“切実な事情”」で紹介したように、米国では人種間のデジタルデバイド(情報格差)に起因するさまざまな問題が存在する。スマートフォンが普及しているにもかかわらず、いまだにオンライン診療のメリットを十分に得られていない患者が相当数いる。後編となる本稿は、オンライン診療における「技術の複雑さ」の問題を解説する。
コンサルティング会社J.D. Powerが2020年10月に発表した調査結果によると、過去12カ月以内にオンライン診療などの遠隔医療を利用した4302人の米国患者のうち半数以上が「遠隔医療の利用が困難になる障壁」に遭遇した。患者の17%は「ややこしい技術要件」がハードルになったと述べた。2021年7月にUniversity of Michigan(ミシガン大学)の研究機関Institute of Healthcare Policy & Innovationが発表した調査結果によると、1040人の米国臨床医のうち約28%が、患者がオンライン診療システムにログインしたり、ビデオ通話の接続をしたりするに当たって追加の支援が必要だと感じていた。
University of Texas at Austin(テキサス大学オースティン校)Dell Medical Schoolおよび付属病院であるUT Health AustinでCIO(最高情報責任者)を務めるアーロン・ミリ氏は「遠隔医療システムに対する一般人のリテラシーはそう高くない」と話す。人々は病院や診療所に足を運んで医師に診てもらうことに、あまりにも慣れているからだ。「患者に何らかの『トレーニング』を提供することは、医療機関のコールセンターに不可欠な要素だと言っていい」(ミリ氏)
Zoom Video Communicationsは、遠隔医療用途の「Zoom for Healthcare」モバイル版で患者が予約を取りやすくなる機能のβ版を2021年8月に提供開始した。この機能は米国向けのもので、Apple「iOS」限定だ。これを使えば医療機関は、患者にアプリケーションのダウンロード方法を教える必要がなくなり、説明の手間を省けるようになる。同社の説明によれば、この機能は間もなく一般利用できるようになり、他のモバイルOSでも使えるようになる。
調査会社ZK Researchの主任アナリストであるズース・ケラバラ氏は「遠隔医療は多様な人口構成のあらゆる人々に使われるようになった」と話す。ただし利用者のほとんどは「どのようにアプリケーションをダウンロードするかを知らず、ダウンロードしたいとも思っていない」とケラバラ氏は語る。
ミリ氏は、遠隔医療システムベンダーにはもっと「使いやすさ」に配慮してほしいと考えている。例えばZoom for Healthcareであれば、患者が技術的な問題で困っている場合、医療機関ではなくZoom Video Communicationsのコールセンターからサポートを受けて、問題を解決することができる。「そうすれば病院側の多大な負担を軽減できる」(ミリ氏)
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