「テープ」復活は確実か? 認めざるを得ない“実は古くない”ストレージの利点見直される「テープ」の存在【前編】

古くからあるストレージである「テープ」に興味深い動きがある。SSDやHDDが主要ストレージとして使用される中で、企業はテープの何に着目すべきなのか。

2022年01月06日 05時00分 公開
[遠藤文康TechTargetジャパン]

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LTO | ストレージ


 データ保管用のストレージのうち、「テープ」の存在感が増している。SSDやHDDと比較してテープの仕組みは古く、一般社団法人のJEITA(電子情報技術産業協会)が公開している「テープシステム技術資料」によれば、世界で最初のテープは1951年に登場した。古い仕組みであることは確かだが、テープは今でも進化を続けている。その特性と現代のニーズが合致して、今後より広くテープが使われるようになる可能性がある。

 法人向けストレージのテープ規格として現在のデファクトスタンダードになっているのは、第1世代の製品が2000年に登場した「LTO」(リニアテープオープン)。2021年時点で最新の第9世代「LTO-9」は、テープカートリッジ1巻で非圧縮時18TB(圧縮時は45TB)のデータ保管ができる。

 富士フイルム、ソニーグループ(開発、製造、販売はソニーストレージメディアソリューションズ)の2社が既にLTO-9のテープカートリッジをOEM(相手先ブランドでの製造)として出荷している。富士フイルムは自社ブランド製品の販売も2021年9月に開始した。LTOを策定する業界団体「LTO Program Technology Provider Companies」(以下、TPCs)から、LTO-9のテープカートリッジの製造ライセンスを受けているのは現時点ではこの2社のみ。

 テープカートリッジベンダーとしてはTDKや日立マクセル(現マクセル)が2010年代にLTOのテープ市場から撤退した。テープカートリッジのベンダー数は減った状況だが、実はこうした撤退の動きと今後のテープ需要への期待は対照的だ。

「テープ」を再浮上させる変化 古さが新しくなる理由とは

 LTO-9に至るまでLTOが継続的に進化していることは注目に値する点の一つだ(LTO規格の進化については後編で紹介)。仮にそれがテープの需要を押し上げる内部要因だとすれば、それ以外にも外部要因として幾つかの変化がある。

 まず根底にあるのは、企業が扱うデータ量が増加していることだ。例えば調査会社IDCとストレージベンダーのSeagate Technologiesが2020年7月に公開したレポート「Rethink Data」(データを再考する)によれば、企業が保存する世界のデータ量は、2015年の0.8Z(ゼタ)Bに対して2025年は9ZBと、10年間で約11倍に増加する。

 データ量の増加はストレージ全般のニーズ拡大を意味する。ただしその中において、「世の中のデータの6割から8割をコールドデータが占めており、これをいかに安価に保管できるかが重要になる」と、富士フイルムの記録メディア事業部長を務める武富博信氏は指摘する。コールドデータとは利用頻度が極めて低い、あるいは全く使用しないデータを指す。例えば1年に1回程度しか使用しないデータ、各種規制によって一定期間の保存が求められるデータなどが該当する。

 データ増加のボリュームゾーンであるコールドデータをSSDやHDDのストレージアレイからテープカートリッジに切り出してアーカイブすれば、幾つかのコスト抑制効果が見込める。まず利用頻度の高いデータ用にSSDやHDDの空き容量を増やせるのと同時に、一般的に見てテープはSSDやHDDよりも容量単価が安いため、データ保管コストの抑制効果も期待できる。テープはデータを保存するテープカートリッジと、データを読み書きするテープドライブが分離した仕組みであり、テープカートリッジでデータを保管しているだけであれば電力を消費しない。そのため電力コスト削減にもつながる。

 LTOのテープカートリッジは約10センチ四方、厚さ2センチほどで、この1巻でLTO-9の場合は非圧縮時18TB、圧縮時45TBのデータを保存できる。将来のLTO規格はテープカートリッジ1巻当たりの容量がさらに増える見込みであるため、それだけ容量単価やストレージの設置面積を減らせる可能性も秘める。ただしSSDやHDDと比較してテープはデータへのアクセス速度(データ読み書きの準備が整うまでの時間)が遅くなる。頻繁に利用する「ホットデータ」や、ホットデータやコールドデータの中間的なデータである「ウォームデータ」の保管用としては使いにくい点には注意が必要だ。

グリーン化やランサムウェア対策のニーズでテープの再評価が進む

 テープの低消費電力の特性は電力コストを削減するだけではなく、企業にとっては二酸化炭素(CO2)排出量を削減する直接的な取り組みになるという別のモチベーションにもつながる。IT設備のグリーン化を目指す動きは今に始まったことではないが、地球温暖化対策に本腰を入れて取り組む企業の動きが各所で見られるようになっていることは事実だ。主要クラウドベンダーはデータセンターのグリーン化が進展中であることをアピールしているし、経済産業省はデータセンターの省エネルギー化など地球温暖化対策の具体的な指針を定めた「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を2021年6月18日に発表した。こうした中にあって、武富氏はグリーン化とテープを取り巻く昨今の市場は、潮目が変わったのだと見解を示す。

 データ増加やグリーン化の動き以外にも、テープの存在感を高める要因はある。例えばサイバーセキュリティ対策だ。テープカートリッジはデータを読み書きするとき以外はネットワークから切り離した保管が可能であるため、サイバー攻撃者が侵害しにくいデータ保管領域を作ることができる。特に昨今はランサムウェア(身代金要求型マルウェア)の被害が相次いでいる。情報処理推進機(IPA)が公開した「情報セキュリティ10大脅威 2021」では、2020年に発生したサイバーセキュリティ事案の影響度の大きさとして、ランサムウェアが前年の5位からランクアップして1位になったほどだ。データがオフラインになるというある意味“古い仕組み”が、現代の脅威対策においては“新しいもの”として見直されている。

LTOテープは穏やかに出荷容量が増加

 以上のようなメリットがテープに期待できる状況だが、実際の出荷状況はどうなのか。実績も見ておこう。TPCsの2021年8月の発表によれば、LTOテープの2020年の出荷容量(圧縮時)は10万5198P(ペタ)Bだった。これは5年前にTPCsが発表した2015年の出荷容量(圧縮時)の実績(約7万6000PB)と比較すると、約1.4倍に相当する。

 前述の通り企業のデータが10年で約11倍に増える状況を前提にすれば、LTOテープの出荷容量の増加はこれまでのところ驚くほどのペースではない。ただし本稿で触れたニーズの変化から、古い仕組みであるテープに時代が逆戻りしてくるような状況であり、今後さらにLTOテープの出荷容量が伸びる可能性は十分にあると言える。

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