いまさら聞けない、SaaSの「SLA」で必ず確認すべきチェックポイントとはSaaSのSLA、押さえておきたい4つの項目【前編】

システムをSaaSに移行するとき、SLAの詳細を確認して契約しないと想定通りの利用ができない可能性がある。SLAを自社の用途に適した内容にするために必ず確認すべきチェックポイントとは。

2022年01月27日 05時00分 公開
[Brian KirschTechTarget]

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 システムのSaaS(Software as a Service)への移行は、技術面だけでなく、ビジネス面での難しさがある。SaaSベンダーとの契約内容には重要な検討事項が幾つかあり、注意が必要だ。問題はコストだけではない。

 SaaSベンダーと契約を結ぶときに見過ごされがちなのは、サービスレベル契約(SLA)だ。SLAは、利用するサービスについて顧客がベンダーに何を期待できるかを示す契約を指す。SLAはベンダーに有利な内容になっている可能性があるため、SaaSベンダーとの付き合いが初めてなら、契約内容とその詳細を知る努力をする必要がある。

 SLAには分かりづらい記載もある。そのため契約時に確認すべき点をまとめたチェックリストを作っておくと役に立つ。リストに含めるべき重要な項目は、稼働時間、利用料金、ライセンス、サービスの詳細などだ。

チェックポイント1.稼働時間の詳細

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 稼働時間に関する指標は、SLAの最も一般的な要素の一つだ。企業は、まずはベンダーがどのような表現で稼働時間のSLAを記載しているかを見るとよい。通常は可用性と耐久性が使用されている。

  • 可用性
    • サービス稼働時間の長さに焦点を当てた評価軸。サービス利用中に使用可能な状態にある時間を指す。
  • 耐久性
    • 長期的なデータ保護に焦点を当てた評価軸。ダウンタイム(システム停止)の後、どのデータも手付かずのまま破損していないことを重視する。

 Amazon Web Services(AWS)の同名クラウドサービス群は、可用性よりも耐久性に重点を置く傾向がある。AWSの耐久性は99.999999999%であり、可用性より高く設定されている。AWSなどのクラウドサービスはサービス名が変更になることがあり、サービス名が変わると稼働停止時間のカウントがリセットされることがある点に注意しなければならない。履歴が変わると、稼働時間の正確な把握が難しくなる恐れがある。

 SaaSが稼働を停止したときに何が起きるのかも考えておく必要がある。通常、SaaSベンダーはサービスのダウンタイムに補償する方針を定めている。だがユーザー企業の業務に及ぶ影響や、それに伴って発生するコストは補償しない可能性がある。例えばユーザー企業が毎月1万5000ドルを支払い、24時間のダウンタイムが発生した場合に、500ドルが補償される契約をSaaSベンダーと締結したとする。だが、その24時間の間に業務で1万~10万ドルの損失が出たとしたらどうなるか。ベンダーによっては、ダウンタイムの影響で企業が被った損害を補償する可能性はあるが、それは確実ではない。

チェックポイント2.利用料金の詳細や更新の条件

 契約の枠組みを精査して、更新、コスト調整、利用料金に関する条件を確認する。これらは経理の専門分野になる項目も含まれるが、IT部門の関与がなければ制御不能に陥る恐れがある。

 SaaSの利用料金は、IT部門の従業員にとって難解な場合もある。請求書の全項目を確認する必要はない。だが不要なサービスが追加されていないことを確かめることは重要だ。不要なサービスは、ベンダーが無償試用版サービスを提供するときに発生することがある。ユーザー企業が試用版からそのまま年間契約に移行すると、サービスにかかるコストは想定よりも高額になる恐れがある。

 利用料金に関しては他にも幾つか注意が必要だ。まず使用量に基づいて毎月金額が変わる可能性がある。不要なオプションサービスも利用料金が想定以上に高くなる要因になる。これを確認するのは必ずしも容易ではないので、月次チェックリストが役に立つ。

 もう一つ重要な要素は、ライセンスの使用量だ。これは利用料金に劣らず重要で、更新に大きく影響する。ライセンス数を増やすか減らすかは使用量に左右されるが、需要は変動する。注意を払わなければ、未使用のサービスに利用料金を支払ったり、現状の契約では需要に対処できず補填(ほてん)のために多額の追加料金を要したりする羽目に陥る。ライセンスの使用量の傾向はすぐには明らかにならない。毎月ではなく、四半期ごとに確認するとよい。


 後編は、サポートオプションなどサービスの詳細と使用に当たっての指標の確認といった2つのチェックポイントを紹介する。

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