SaaSは業務効率の向上につながるツールを簡単に導入できる利点がありますが、従来のネットワーク構成で利用すると業務効率を低下させてしまう場合もあります。どのような問題に対処しなければならないのでしょうか。
SaaS(Software as a Service)形式の業務アプリケーションを利用する際、ネットワークのトラフィック特性に関して注意すべき点は少なくありません。社内のクライアントPC1台当たりのセッション(通信の開始から終わりまでの接続単位)数が非常に多くなる点はその一つです。「Office 365」や「G Suite」のようなオフィススイートのSaaSは、Webページの閲覧を中心とした一般的なインターネットの利用とは比較にならないほど多くのセッションが発生します。クライアントPC1台当たり20〜30セッション、多ければ100セッション以上になります。
Web会議のようなリアルタイム性のある通信を必要とするアプリケーションであれば、ネットワークのレイテンシ(遅延)にも目を向ける必要があります。SaaSベンダーのサーバから、ユーザー企業の従業員が使うクライアントPCまでのレイテンシが一定の範囲内に収まらないと、正常に動作しないことが少なくないからです。
SaaSベンダーが、自社SaaSのインターネット内での場所を指す「IPアドレス」を変更する場合があることにも注意する必要があります。ルーターやファイアウォールなどのネットワーク機器がIPアドレスの変更に追従しなければ、SaaSと通信できなくなる場合があるからです。
従業員がSaaSを利用する際、WebブラウザのアドレスバーにSaaSのURLを入力します。このときのURLは一般的に「ドメイン名」と呼ばれる、人が理解しやすい文字列で構成されています。ただしネットワーク機器は、通常はコンピュータが理解しやすい数字列のIPアドレスで通信を制御します。その場合、SaaSのIPアドレスが変わると適切な制御ができなくなるため、ネットワーク機器は接続先のIPアドレスを定期的にチェックする必要があります。
ドメイン名はベンダー名やサービス名が含まれることが珍しくなく、ブランディングや認知の観点から固定化されやすい傾向があります。ドメイン名はIPアドレスと対応しますが、ドメイン名はIPアドレスと比べると変更はそれほど頻繁ではありません。ただしSaaSの機能追加や廃止に伴って、ドメイン名そのものの増減や変更が起こる可能性があることに注意が必要です。
このようにSaaS利用時には従来とは異なるさまざまな点を考慮に入れなければならないのです。
ネットワークに潜む以下の4つの問題を放置したままでSaaS導入に踏み切った場合、SaaSを快適に利用できなくなる可能性が高くなります(図)。
SaaS導入の際は、必要になるネットワークの通信路容量(帯域幅)を考慮に入れなければなりません。例えばメールではクライアントPC1台当たり10kbps弱、Web会議で同100kbps弱のデータ伝送速度を維持できるだけの帯域幅を確保する必要があります。クライアントPCの台数が多くなれば、それだけ必要な帯域幅は大きくなります。インターネットを使うにしても、専用線を使うにしても、十分な帯域幅を確保することなくSaaSを導入すれば、SaaSを快適に利用できなくなる可能性があります。
拠点間の会議にWeb会議のSaaSを利用する場合は、拠点と自社のデータセンターを接続するWANに大容量のトラフィックが流れることになるため、契約しているWANの帯域幅が不足する可能性があります。その場合はWeb会議の画質や音質が劣化するだけでなく、その他の業務アプリケーションの動作が遅くなってしまう懸念があります。
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