無駄をそぎ落としたコンピュータとして異彩を放つ「Raspberry Pi」は、一般的なコンピュータの安価な代替品として生まれたわけではない。誕生10周年を迎えたRaspberry Pi。その当初の“使命”を振り返る。
小型のシングルボードコンピュータ(SBC:最低限の要素から成るコンピュータ)である「Raspberry Pi」が2022年2月、初代モデル発売の2012年2月から10周年を迎えた。わずか25ポンド(約4000円)のコンピュータが革命を起こすと、誰が考えただろうか。
初期のRaspberry Piはディスプレイはもちろん、マウスも、キーボードも備えておらず、OSすらインストールされていなかった。“まっさらなキャンバス”を提供するという思想が背景にあったからだ。ユーザーがプログラミングによって、さまざまなことを実現できるオープンなハードウェアであることが、当時からのRaspberry Piの特徴だ。
ユーザーは初期のRaspberry Piを動かすために、「Linux」をベースにしたRaspberry Pi用OSをダウンロードし、SDメモリカードに書き込む方法を見つけなければならなかった。「Windows」搭載PCや「Mac」、スマートフォンといったデバイスから、ターミナルエミュレータ(遠隔操作ソフトウェア)経由でRaspberry Piにアクセスする方法を把握する必要もあった。
その上で、Linuxのシェル(基本的なユーザーインタフェース)である「Bash」を使って、Raspberry Piを使いこなすためのソフトウェアをインストールした。必要なソフトウェアがない場合、開発用ツールやライブラリ(プログラム部品群)を使って、自分でソフトウェアをプログラミングしなければならなかった。
Raspberry Piは、「Microsoft Office」「Adobe Creative Cloud」といったビジネスツールの使い方を覚えるための手段として生まれたのではない。Raspberry Piは教育用デバイスとして、子どもが必要最小限のシステムを利用できる手段として登場した。
Armアーキテクチャのプロセッサと、起動可能なSDメモリカードを搭載したRaspberry Piは、プログラミングの世界をさまざまな世代に広げた。以前は家庭でのコンピュータの使い方は、PCやスマートフォン、タブレットで出来合いのアプリケーションを操作するだけにとどまっていた。Raspberry Piは実質的に家庭用コンピュータの黎明(れいめい)期に時計の針を戻し、家庭に電子機器を動かす楽しさをよみがえらせた。
教育用コンピュータとして登場したRaspberry Piは、企業でも広く使われるようになった。後編は、広がるRaspberry Piの用途を解説する。
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