科学誌『Nature』に発表された研究結果によれば、Web会議のブレーンストーミングでは、対面会議と比べて新しいアイデアが生まれにくい。企業はこの事実をどう受け止めるべきか。
2022年4月に科学誌『Nature』が公開した論文「Virtual communication curbs creative idea generation」によると、Web会議の出席者は、同じ部屋に集まった出席者に比べて創造性を発揮しにくいことが分かった。論文ではその理由までは突き止めていないものの、論文の共著者でマーケティングを専門とするColumbia University(コロンビア大学)教授のメラニー・ブルックス氏は、考えられる原因として
を挙げる。「視野が狭くなっているときは、基本的に、目隠しをしているような状態になる」とブルックス氏は話す。
この結果は「企業が従業員に対してオフィスに戻るよう指示すべきだ」という意味ではない、とブルックス氏は説明する。とはいえブレーンストーミングの計画を立てるなら、従業員がオフィスにいる時にするのが望ましいと考えられる。
Natureの論文は、金融持ち株会社JPMorgan Chaseの会長兼CEOであるジェイミー・ダイモン氏をはじめとする著名経営者の主張を裏付けている。ダイモン氏は「オフィス外での勤務時間が長過ぎると創造性が損なわれ、企業文化が弱体化する」と論じている。ただしJPMorganを含め企業の間では「従業員をつなぎとめるためには、ある程度多様な働き方を柔軟に取り入れる必要がある」と認める動きが広がっている。
このジレンマに立ち向かう企業を支援する目的で、ブルックス氏およびStanford University(スタンフォード大学)教授のジョナサン・レバフ氏は、Web会議による創造性の欠如という主張を検証することにした。ブルックス氏は当初、この調査によって創造性の低下が明らかになるとは考えておらず、問題の原因はWeb会議に対する管理職の不安にあると予想していた。「どんなものであれ新しい技術が導入されると、人は恐れを抱く」(ブルックス氏)
結果は当初の予想に反していた。スタンフォード大学の学生を対象として、Web会議中に「フライングディスクや気泡緩衝シートのユニークな使い方を提案してほしい」と促したところ、対面会議のチームよりもWeb会議のチームの方がクリエイティブなアイデアが少ない結果となった。テレワークのエンジニアが新製品のブレーンストーミングを実施した場合の調査も、同様の結果だった。
Web会議ツールは創造性を高める工夫として、仮想的なホワイトボードであるデジタルホワイトボード機能を搭載し始めている。だがスタンフォード大学での検証結果は「デジタルホワイトボード機能は本当に、ベンダーが主張するほど創造性を高めてくれるものなのか」という疑問を生じさせる。ブルックス氏は、デジタルホワイトボード機能がWeb会議の問題を解決できるかどうかという問いに懐疑的だ。
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