人種差別の解消に向けて、IT業界は多様な背景の人材を受け入れつつあるが、「問題はそれだけでは解決しない」と専門家は指摘する。何が欠如しているのか。
IT業界をよく知る人事分野の専門家は、ダイバーシティー(多様性)、エクイティー(公平性)、インクルージョン(包摂性)を意味する「DEI」をIT業界が実現する道のりは長いと考えている。ITコンサルティング企業Avanadeのチーフダイバーシティーオフィサーであるハラム・サージェント氏は「有色人種の従業員が直面する問題は、組織構造に起因することが珍しくない」と指摘する。DEIを欠く企業は、どこに問題があるのか。
サージェント氏は次のような例え話を使って説明する。池で魚が1匹か2匹死んでいたら、病気になったと考えるのが普通だ。水槽で魚がたくさん死んでいたら、水に問題があったのではないかと考えるはずだ。つまり、魚(人)ではなく水(環境)が重要だ。エスニックマイノリティー(地域や社会における少数民族)が活躍できるように、企業は環境を整備しなければならない。エスニックマイノリティーの人材を適切に配置したり、昇進させたりする仕組みづくりが必要ということだ。
現状は、エスニックマイノリティーの従業員が働き続けられるよう、十分な努力をしない経営者があまりにも目立つ。「多様な人材を採用する方針をさまざまな企業が採用しつつあるが、その人材が働き続けるための仕組みづくりはそれほどうまくいっていない」と、サージェント氏は指摘する。一般的に、エスニックマイノリティーや女性がシニアリーダー(上級職)に到達するまでの道のりは、平たんとは言えない。上級職への昇進の前に、大きな“崖”がある。
多様な人材を採用できているから良いわけではないのだ。この点については、人種差別解消を専門とする人事アドバイザリー企業HR rewiredの創設者兼マネージングディレクターであるシェリーン・ダニエルズ氏も同意する。ダイバーシティーの実現に向けた努力は、多様な人材が定着しているかどうかに反映するという。「もしあなたの会社が『ダイバーシティーを実現できている』と自画自賛しているのなら、エスニックマイノリティーの定着率を確認してほしい」(ダニエルズ氏)
第5回は、「エスニックマイノリティーの問題は人それぞれ異なる」という点を踏まえて、実施すべき具体的な施策を紹介する。
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