調査によれば、米国ではさまざまな企業が「DEI」(多様性、公平性、包摂性)の取り組みに苦慮している。企業がDEI向上を推進するほど、従業員同士の溝が深まるとの見方もある。どういうことなのか。
世の中と同じように、職場でも政治や社会の問題をめぐる意見の対立が起こることがある。従業員の間で意見の相違による分断があると、雇用主、とりわけ「DEI」(ダイバーシティー、エクイティー、インクルージョン:多様性、公平性、包摂性)ポリシーを推進する雇用主にとっては、難しい状況になる。
調査会社Gartnerが2022年10月に開催したカンファレンス「Gartner ReimagineHR Conference」の場で、同社アナリストのレーチェル・ローレンス氏は、同社が実施したDEIに関する調査(2021年2月に、企業の従業員3000人を対象に実施)の結果を紹介。米国では2020年10月の大統領選挙の後、従業員の44%が政治的信念を理由に、職場の同僚を避けるようになったという。
こうした実態を十分に考慮せずにDEIポリシーの適用を進めると、考え方の変化をすぐに受け入れる従業員と、そうではない従業員との間で分断が生じかねない。Gartnerが2021年9月に、企業の従業員3516人を対象に実施した調査では、約42%は「DEIポリシーは分断を招く」と回答している。
ローレンス氏によると、DEIの取り組みに前向きなふりをしているが、実は反発している従業員もいる。例えば「DEIのデータがもっと欲しいといつも言っているが、DEIに関して何も行動を起こさないマネジャーがいる」と、カンファレンスで同氏は述べた。この発言に対して、聴衆からは思い出し笑いが漏れていた。
Gartnerが提示したDEIの調査データに関して、カンファレンスの参加者は、現状の問題点が広く分析されていることを支持した。参加者の1人で、民間企業の人材管理ディレクターを務めるエイジャ・ハウエル氏は「人々の間に分断が広がっている」と主張。この問題は「なくならない」と考えている。政治だけではなく、宗教や文化の問題も、人と人の間に溝を作っているとハウエル氏は指摘する。
ローレンス氏は、職場のDEIポリシーに抵抗や反発があった場合に「沈黙よりも意思表明が重要」だと説く。後編は、その理由を解説する。
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