ITエンジニアとしてのキャリア形成を考えた時、業務内容や給与だけでなく「どの都市で働くか」も重要なポイントになる可能性がある。世界中のITエンジニアが熱視線を送る、IT産業が活況な5都市を紹介する。
テレワークとオフィスワークを組み合わせた「ハイブリッドワーク」が普及し、場所や時間帯を選ばない柔軟な働き方を選ぶことは珍しくなくなりつつある。ITエンジニアなら特にそうだ。「世界のどの都市で働くか」が、自身の専門性とキャリア形成を左右する可能性がある。
実際のところ、給与水準が高いIT企業の求人は特定の都市に集中している。そして大抵の場合、高給のIT求人が集中する都市の近くにはITを重点分野とする大学や研究機関がある。こうした都市には魅力的な生活があり、他のITエンジニアや業界リーダーとの人脈が構築できる、という期待を抱かせてくれるものだ。
本稿はIT産業が活況な世界の都市10カ所について、特徴とトレンドを紹介する。
ベイエリアに位置するシリコンバレーには、AppleやGoogle、Intel、Meta Platforms、Salesforceなど、経済誌Fortuneによる企業売上高ランキング「Fortune 500」に名を連ねる企業が拠点を置いている。Appleの共同設立者であり前CEOの故スティーブ・ジョブズ氏や、民泊サービス「Airbnb」の共同創設者兼CEOブライアン・チェスキー氏をはじめとしたビジネスリーダーたちが、野心的な事業を立ち上げた場所でもある。
ベイエリアの魅力の一つは、高度なスキルを持つ人材が集中していることだ。「Startup Haven」(スタートアップの創業者、投資家、起業を目指す人々が集い支援を提供する組織)も存在する。ケッペンの気候区分で「地中海性気候」に分類され、温暖な気候に恵まれることも強みだ。
テレワークの広がり、IT大手で相次ぐレイオフ(一時解雇)、2023年3月10日(現地時間)にシリコンバレー銀行(SVB:Silicon Valley Bank)が経営破綻した出来事などを受けて、シリコンバレーを離れるITエンジニアも増えつつあるが、依然として優秀な人材を引きつける場所だ。
インドのシリコンバレーとも呼ばれるベンガルール市(旧称バンガロール市)は、GoogleやIBM、インドのITベンダーInfosysをはじめとした大手IT企業が拠点を構える。
「ITパーク」と呼ばれる経済特区には航空宇宙産業やバイオテクノロジー企業向けの専用エリアもあり、さまざまな業界の企業が集まる。バンガロール市の魅力は、企業活動が活発で生活費が比較的安価なことだ。人事コンサルティング企業Mercerが2023年に公開している、世界227都市の物価を比較する調査レポート「Cost of Living City Ranking 2023」によれば、バンガロール市は世界227都市中189位だった。
シアトル市は、サンフランシスコ市ベイエリアに並んで注目を集めている地域だ。Amazon.comやMicrosoftをはじめとした大手IT企業が本拠地を構え、スタートアップ(創業間もない企業)も集まっている。ベイエリアに比べて生活費が比較的安いという特徴を持つ。
米国労働省労働統計局(BLS:Bureau of Labor Statistics)が公開した2022年5月のデータによると、同市の住民1000人当たり83.46人がIT業界で働いており、IT業界に労働人口が集中しているといえる。IT業界の高い給与体系は魅力の一つだ。BLSによると、IT業界の平均年収は13万5590ドルだった。
FinTech(金融とITの融合)やバイオテクノロジー分野を重点領域として、企業誘致や投資に取り組むチューリッヒ市には、Google、IBM、Microsoftといった大手IT企業が拠点を構える。スイスは欧州の中でも給与体系が比較的高いが、その中でチューリッヒ市はフルスタック(複数分野に精通した)開発者の平均給与が同国の他地域と比べて高い傾向にある。
高い生活水準もチューリッヒ市の魅力の一つだ。経済誌『Economist』の調査部門Economist Intelligence Unit(EIU)は世界の173都市を教育や環境といった項目に基づいて比較し生活のしやすさを評価した調査レポート「The Global Liveability Index 2023」を公開している。同レポートでチューリッヒ市は173都市中第6位にランクインしている。
米国の首都ワシントンD.C.には政府機関が集まり、サイバーセキュリティ分野からITインフラ分野までさまざまな求人が存在する。政府機関のIT系職種でキャリアを積みたいITエンジニアにとっては魅力的な選択肢と言える。Cisco SystemsやIBM、Microsoft、Oracleといった大手IT企業もここに拠点を持つ。BLSが公開した2022年5月のデータによると、ワシントンD.C.では1000人当たり80.53人がIT業界で働いており、その平均年収は12万5360ドルだ。
ワシントンD.C.に隣接するバージニア州北部には、データセンターの集積地もある。この地域は「ダレステクノロジー回廊」(Dulles Technology Corridor)や「データセンターアレイ」(Data Center Alley)という異名を持ち、政府機関や通信事業者、データセンター事業者など、IT産業の多彩な顔ぶれが拠点を構えている。
後編も引き続き、世界中のITエンジニアが関心を寄せる活況な都市を紹介する。
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