金融大手JPモルガンが慎重に「生成AIプロジェクト」を進める理由用心深さが「生成AI」成功の鍵【後編】

生成AIの導入にはメリットだけでなくリスクが付き物であり、導入企業は慎重にならざるを得ない。金融機関JPMorgan Chaseは生成AIの導入においてどのようなアプローチを採用したのか。

2023年12月14日 08時00分 公開
[Esther AjaoTechTarget]

関連キーワード

人工知能 | データ | 金融 | 医療IT


 テキストや画像などを自動生成するAI(人工知能)技術「生成AI」(ジェネレーティブAI)の利用機会が広がる中で、そのリスクへの対策も急務となっている。特に大企業やグローバル企業、金融などのミッションクリティカルシステムを提供する企業は、リスク抜きに生成AIの利用を考えることはできない。

 金融サービス大手のJPMorgan ChaseでAI関連の取り組みを統括するブライアン・マーハー氏は、科学技術誌『MIT Technology Review』が2023年5月に開催したカンファレンス「EmTech Digital 2023」で同社の取り組みを説明した。マーハー氏が同社の生成AI導入について強調したのは“慎重さ”だった。

JPモルガンが慎重に「生成AI」導入を進める理由

 具体的には比較的リスクの低い分野を選定し、時間を掛けて生成AIを導入するやり方だ。JPMorgan Chaseは生成AIに関してまだ十分な知識やノウハウを持っていない。そのため以下のようなポイントを踏まえてリスクが比較的低い分野を検討し、限定的な利用にとどめているという。

  • 顧客や取引先への潜在的な影響
  • 大規模言語モデル(LLM)で使用するデータのリスク要因
  • 内部データや機密データに与える影響

 JPMorgan Chaseは生成AIを使用するシナリオを全て厳重に登録し、生成AIが適切に機能しているかどうかを人間が監視してフィードバックを実施する。こうしたプロセスが必要になる理由は、生成AIの“非決定的な性質”にある。「生成AIが回答を生成する仕組みには未知の部分があり、それを説明するのは非常に困難だ」とマーハー氏は話す。米連邦取引委員会(FTC)をはじめとする規制当局から透明性の欠如について指摘を受ける恐れがあるため、同社は生成AIの監視を今後さらに強化する方針だ。

 米国における株式や債券などの証券取引の監督、監視を担う政府機関の米国証券取引委員会(SEC)は、2022年10月に規制の改正を提案した。具体的には、投資顧問会社が特定サービスをアウトソーシングして顧客に提供する際に、サービスプロバイダーのデューデリジェンス(適正評価)と監視の実施を義務付けるものだ。「明確には述べられていないが、AI技術は間違いなく規制の対象に入る」とマーハー氏は話す。このような規制の順守が必要な金融業界は、生成AIの導入に関して慎重なアプローチを取らざるを得ない。

 マーハー氏は、生成AIの透明性や説明可能性を向上させることに関してJPMorgan Chaseが負っている責任も強調する。「当社は金融機関として、規制当局や利害関係者、株主、顧客に対し、当社の取り組みを説明する責任がある」(同氏)

TechTarget発 世界のインサイト&ベストプラクティス

米国TechTargetの豊富な記事の中から、さまざまな業種や職種に関する動向やビジネスノウハウなどを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

隴�スー騾ケツ€郢晏ク厥。郢ァ�、郢晏現�ス郢晢スシ郢昜サ」�ス

技術文書・技術解説 サイオステクノロジー株式会社

平気でうそをつくLLM、正直者へと変身させるRAGアプリケーションの作成法とは

LLMはビジネスに計り知れない恩恵をもたらす可能性を秘めているが、問題点の1つは、平気でうそをつくこと(ハルシネーション)だ。そこで、この問題を解決するために役立つ、RAGアプリケーションの作成方法を紹介する。

市場調査・トレンド ServiceNow Japan合同会社

AIを利用して組織全体の生産性を向上させる方法とは?

生成AIの登場によって、AIを業務活用しようとする企業が増えてきている。しかし、AIをどのような形で導入すればよいのか悩んでいる企業も少なくない。本資料では組織全体にAIと生成AIを組み込む方法について解説する。

技術文書・技術解説 Asana Japan株式会社

AI導入の現在地:知っておくべき6つのメリットと「2026年問題」とは?

労働力不足の解消や生産性の向上など、多くのメリットが見込める、職場へのAI導入。一方、LLM(大規模言語モデル)の学習データが枯渇する「2026年問題」が懸念されている点には注意が必要だ。それによる影響と、企業が取るべき対策とは?

市場調査・トレンド Asana Japan株式会社

AI活用がカギ、最新調査で読み解く日本企業がイノベーションを推進する方法

現代のビジネス環境下で企業が成長を続けるには「イノベーション」の推進が不可欠だ。最新調査で明らかになった日本企業におけるイノベーションの現状を基に、イノベーション推進の鍵を握るAI活用やベロシティ向上の重要性を解説する。

製品資料 SB C&S株式会社

ワンランク上の「AI+PDF」活用、生産性・効率を飛躍的に向上させる秘訣

今やビジネスを中心に、多様な場面でやりとりされているPDF。このPDFをより便利にするためには、文書の能動的な活用がポイントとなる。本資料では、アドビの生成AIを用いながら生産性や効率を飛躍的に向上させる活用方法を紹介する。

From Informa TechTarget

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。

ITmedia マーケティング新着記事

news046.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news026.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...

news130.jpg

Cookieを超える「マルチリターゲティング」 広告効果に及ぼす影響は?
Cookieレスの課題解決の鍵となる「マルチリターゲティング」を題材に、AI技術によるROI向...