適切に意思決定を下すには、過去のデータに基づき、何度もシミュレーションを実施することが欠かせないことがある。複雑な問題の解決につながる主要モデルの一つ「エージェントベースモデリング」とは。
複雑な問題を分析したり、相互作業の結果を予測したりするために、シミュレーションのモデルが使われる。さまざまな問題解決に使われる代表的なモデル4つのうち、「エージェントベースモデリング」がどのような手法なのか、特に何に使われるのかを解説する。
鳥の群れから1羽が無作為に飛び立った後、他の鳥も次々と飛び立つ光景を目にしたことがないだろうか。鳥の群れは、誰かに指示されずともきれいな隊列を組んで飛行する。周囲の状況に応じて取るべき行動のルールを身に付けているからだ。それぞれの鳥は障害物を避けながら飛行し、群れの他の鳥の位置を確認しながら、自身の位置を調整する。
シミュレーションを基にした定量分析手法「システムダイナミックス」において、鳥は「エージェント」と表される。エージェントは自律的であり、エージェントの行動は相互作用性をもってシステム全体に影響を及ぼすため、全体として予測しにくいシステム構成となる。このような個体や集合体におけるルールを特定するプロセスを「エージェントベースモデリング」と呼ぶ。
エージェントベースモデリングは、機械や生体における通信と制御を総合的に扱う学問分野「サイバネティクス」の初期形態として1960年代に研究が進み、現在でも重要な位置を占める。例えば、高速道路における交通量をモデル化する際は、各車両を一連の交通ルールに従うエージェントとしてシミュレーションする。
他にも、ドローンをはじめとするIoT(モノのインターネット)デバイスの開発において、エージェントベースモデリングが使用される。IoTデバイスの動作は基本的に中央制御装置による複雑な処理には依存せず、近くのデバイスと通信して調整し、不確かな情報を受け取った場合にのみ中央制御装置に確認を求める。この仕組みにより、レイテンシ(遅延)やボトルネックの発生を回避する仕組みだ。近くのデバイスと中央制御装置どちらとも通信できない場合はセーフモードに移行する。
このような相互作用の特徴は、エージェントシステムの欠点でもある。例えば、一部のエージェントに停電などの障害が発生すると、他のエージェントにも問題が波及してしまう可能性がある。1機のエージェントの突発的な行動が原因で、復旧が困難な状況を引き起こしかねない。
エージェントはソフトウェアオブジェクトに置き換えてもシミュレーション可能だ。例えば、細胞の相互作用性を観察する細胞生物学の分野はエージェントベースモデリングの対象として適している。
次回は、離散事象シミュレーションについて解説する。
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