なぜあの会社はうまくいったのか? DX実践企業3社が捨てた“業界の常識”実践事例に学ぶDXの知恵【第4回】

DXとデジタル化は根本的に違うものだ。利益をもたらすDXにはどのような特徴があるのか。3つの事例から、ポイントを考察する。

2024年02月23日 05時00分 公開
[George Lawton, Mekhala RoyTechTarget]

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 デジタルトランスフォーメーション(DX)の実践は、「IT事業への転換」と言えるほどの構造改革を伴うことがある。自動車、金融、製造の分野で実際に大きな転換を成し遂げ、新しいサービスを生み出した3つのDX実践例を紹介する。

事例1.自動車メーカー:ARによる修理サービス改善

 老舗の自動車メーカーも電気自動車(EV)メーカーTeslaを見習って、デジタル技術を事業に組み込み、利益向上を目指している。ある大手自動車メーカーはITコンサルティング企業Tech Mahindraと提携し、最先端のデジタル技術を駆使して自動車製造と販売プロセスを再構築しようとしている。

 この自動車メーカーは「AR」(拡張現実)技術に予算を投じ、製品のアフターサービスにおいて自社のエンジニアとディーラーの整備士が協働するプロセスを改善した。Tech Mahindraで南北アメリカ営業担当シニアバイスプレジデントを務めるクリシュナ・バラ氏は、従来型の自動車整備について次のように説明する。複雑な修理工程を必要とする車両が入庫したり、特殊な部品や仕様を持つ車両が入荷したりすると、ディーラーの整備士だけでは顧客の要望を解決できない場合がある。このような問題が発生すると、自動車メーカーのエンジニアがディーラーを訪問するか、検査のために車両を工場に送る必要がある。ARアプリケーションはこのような状況でエンジニアと製造工場が効率的に情報を共有するのに役立ち、より迅速かつ正確に修理を実施することが可能になる。

 顧客エクスペリエンスや従業員エクスペリエンスの向上にもAR技術は役立つという。「営業部門と技術部門の連携を促し、販売プロセスにおける混乱を最小限に抑えることができる」とバラ氏は述べる。

事例2.金融機関:FinTechで顧客満足度向上

 コンサルティング会社Protivitiでマネージングディレクターを務めるジェイソン・ブルッカー氏はある大手金融機関に協力し、従来型のビジネスモデルからFinTech(金融とITの融合)に基づく営業サービスに転換させた。同社のリブランディングにも尽力したという。

 この金融機関は当初、最高技術責任者(CTO)が管轄する部署だけでDXに取り組む予定でいたという。しかし同社はその後すぐに「まずは外部の専門家に支援を仰ぎ、IT運用やガバナンス戦略を最適化する必要がある」と気付いたという。

 ブルッカー氏によると、この金融機関はCTO直下のDX推進部門を設置し、ポートフォリオ管理とリスク管理に関するプロセスを見直した。会社全体で明確な目標を設定し直すとともに、投資に関する意思決定と目標とを結び付けた。ガバナンス強化や事業部門の変革にも重点を置いたという。

 DXを通じて得られたメリットの一例は下記だ。

  • 1株当たりの純利益増
  • パートナー企業との関係構築と協働体制の効率化
  • 従業員エンゲージメントの向上
  • 離職率の減少

 DXの取り組みは広範に及んだが、この金融機関はDXへの着手から数カ月で成果を実感したという。ブルッカー氏は成功の要因を「IT部門や事業部門など特定の部門内で変革を終わらせず、組織全体の変革につなげた」ことにあると指摘する。

事例3.製薬企業:新薬開発プロセスの迅速化

 DX支援を手掛けるグローバルサービス企業のGenpactでチーフデジタルストラテジストを務めるサンジェイ・スリバスタバ氏は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)が医薬品業界全体のDXに与えた影響に着目する。例えば従来は新薬開発から市場投入までに8〜10年近くかかっていたが、COVID-19のワクチン開発から流通までにかかった期間は1年未満という短期間だった。

 新薬やワクチンを上市するまでの期間短縮に貢献したのがDXだ。スリバスタバ氏によれば、組織内の知見をひも付けグラフ構造で表す「ナレッジグラフ」技術を活用して、データ分析基盤から変革が可能な要素を特定し、組織内の連携を強化した事例がある。

 医薬品業界では、一定量の医薬品を一度にまとめて生産し、薬局で販売する従来型のビジネスモデルから、「プレシジョンメディシン」(精密医療)への転換を図る企業が増えつつある、というのがスリバスタバ氏の見解だ。プレシジョンメディシンとは、IoT(モノのインターネット)や分析技術に基づいて生活習慣や患者の遺伝子など固有の条件を割り出し、個人に応じた最適な医薬品を製造して提供する手法だ。

 医薬品業界のDXから得られた教訓として、スリバスタバ氏はこう話す。「DXは、業務やプロセスをデジタル化する『デジタライゼーション』とはまったく異なる」。デジタライゼーションはプロセスの自動化を意味する一方で、DXは業務プロセス全体を変革するものだからだ。

 DXの流れと要点について、スリバスタバ氏はこう結論付ける。まず、デジタル技術をビジネスモデルと業務プロセスに組み込む。顧客の消費体験を再設計し、それを顧客が積極的に利用するよう促す。従業員に新たなスキルセットを身に付けてもらう。その内容を運営に反映させる。「利益をもたらすDXは、これらの要素に多くの注意を払っている」と同氏は指摘する。

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