技術革新が進み、LLMをクラウドサービスや自社データセンターではなく、手元のPCで動かすことが技術的に可能になった。何をすれば実現できるのか。複数人での利用時に発生する問題点を解消できるツールとは。
クラウドサービスに頼らずローカルマシンでLLM(大規模言語モデル)を動かすことが現実的になってきた。社内LANでの運用はプライバシーの確保やインターネット接続なしでの利用につながる一方、運用面での課題をクリアしなければ実現は難しい。特に複数のエンドユーザーで利用する場合には、負荷分散のための工夫も必要になる。どのようなツールを活用すればよいのか。
企業は専用のツールやサービスを活用して、エンドユーザーのデバイスでLLMを実行可能だ。これらのツールが提供するAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を使用して、外部ソースから得た情報を用いてAIモデルの出力精度を高める手法「RAG」(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)を組み込んだアプリケーションを構築できる。
オンプレミスシステムでLLMを実行するためのツールの例を以下に挙げる。
Ollamaは「macOS」「Linux」「Windows」で利用可能だ。リポジトリ(保管場所)から最適化されたLLMをダウンロードし、実行するためのCLI(コマンドラインインタフェース)を提供する。LLM実行アプリケーション「AnythingLLM」や、ソースコード生成AIアシスタント「Continue」などの外部ツールとの連携が可能だ。
Ollamaは単一エンドユーザーでの利用には適するが、複数のエンドユーザーにサービスを提供する中央集約型システムで使うには、別のツールが必要だ。この場合、LLM用サーバソフトウェア「vLLM」や、機械学習用サーバソフトウェア「NVIDIA Triton Inference Server」といったツールを使うことになる。
vLLMは、単一GPUに加えて、「テンソル並列処理」という技術で、大規模なLLMを複数のGPUに分散させ、複数サーバやGPUを使う構成でもLLMを実行できる。コンピュータがGPUを搭載していない場合は、CPUを使ってLLMを動かすことも可能だ。
テンソル並列処理が必要になる場面を考えてみよう。「NVIDIA H200 Tensor Core GPU」のメモリ容量は141GBと比較的大容量だが、大規模LLMを格納するには不十分な場合がある。そのため複数のGPUを組み合わせ、テンソル並列処理を活用する必要がある。複数のノードにまたがる大規模な構成では、サーバ間での高速な通信が不可欠だ。可能であれば、サーバ同士を接続するインターコネクト技術「InfiniBand」といった技術を採用するとよい。
vLLMはコンテナオーケストレーションツール「Kubernetes」と組み合わせて使うことができ、スケーラビリティや高可用性といったKubernetesの利点を生かした推論サービスを構築できる。フレームワーク(プログラム部品やドキュメントの集合体)「Ray」を使えば、複数サーバでの推論が可能になる。Rayはプログラミング言語「Python」で開発されたAIアプリケーションでの利用を想定したフレームワークだ。
Kubernetesを使ってvLLMを運用する際、vLLMは複数の独立したコンテナとして動作し、それぞれが異なるネットワークアドレスで通信を受け付ける。このため、エンドユーザーからのリクエストを適切に各コンテナに振り分ける負荷分散(ロードバランシング)が重要になる。これにはKubernetesの標準機能であるHTTPロードバランシング機能や、「LiteLLM」などの専用プロキシサービスを使うとよい。NVIDIAが提供する、各コンテナがホストマシンのGPUを利用できるようにするためのプラグインをインストールすることも不可欠だ。
vLLMを導入することで、企業は「LangChain」などのフレームワークを用いて独自アプリケーションやサービスを構築できるようになる。同じシステムを用いてLLMをファインチューニング(特定用途向けの小規模データセットを用いた調整)することも可能だ。
複数ユーザーで利用するLLMを稼働させるための別の選択肢として「NVIDIA AI Enterprise」がある。NVIDIA AI EnterpriseはRayを含むvLLMと同様の機能、サービス群を提供する一方、商用サービスであるため、コストがかかる点には注意しなければならない。
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