Arm版Windowsはもう“悪夢”じゃない? 「Copilot+ PC」の使用感はCopilot+ PCを2カ月使って分かったこと【第2回】

Armプロセッサを搭載したPCでWindowsを動かすMicrosoftの過去の試みは、成功したとは言えない。同社は新技術を搭載した「Copilot+ PC」で再び“Arm版”に力を入れている。実際の使用感を紹介する。

2025年02月27日 08時00分 公開
[Gabe KnuthTechTarget]

 AI(人工知能)モデルの処理に特化したプロセッサ「NPU」(ニューラル処理装置)を搭載した「AI PC」が勢いづいている。先陣を切ったMicrosoftは、Qualcomm Technologies(以下、Qualcomm)と共同で、2024年5月にAI PCブランド「Copilot+ PC」の製品群を発表した。筆者はDell Technologiesに働き掛けてCopilot+ PCである「Dell XPS 13 9345」を提供してもらい、2カ月間使い込んで評価することにした。

 Copilot+ PCとして初めて登場したPC群は、Armアーキテクチャのプロセッサ(Armプロセッサ)を搭載している。IT業界で経験を積んできた人の中には、Microsoftが過去にArmプロセッサ搭載PC向け「Windows」に力を入れていたことを覚えている人がいるはずだ。その試みは成功しなかったが、Copilot+ PCはその失敗を乗り越えたと言える。背景にはどのような進化があるのか。

「悪夢再び」ではなくなったArm版Windows

 かつてMicrosoftは、以下を搭載したPCを作ろうとした。

  • OS「Windows 8.1」
  • デバイス管理ツール「Microsoft Intune」
  • Armプロセッサ

 この試みは成功しなかった。全てのアプリケーションはアプリケーション開発・実行環境「Universal Windows Platform」(UWP)で実行でき、「Windows Store」(現「Microsoft Store」)ストアを通じて提供されなければならなかった。「x86」「x64」といった命令セットアーキテクチャで動くプロセッサ用に開発された、従来のWindows向けアプリケーションは動作対象外だった。つまり開発者にアプリケーションの修正が求められたということだ。すでにAppleがエミュレータ「Rosetta」を使って複数アーキテクチャでアプリケーションを実行できるようにしていた中、Microsoftの試みはいささか強引なやり方だったと言える。

 この取り組みは不発に終わったが、Microsoftにとっては貴重な学びになった。今回のArmプロセッサ搭載PC向けWindowsは、当時とは違って見事に仕上がっている。この仕組みにおいて重要な役割を果たすのが、Windowsアプリケーション用エミュレータ「Prism」だ。

Prismの革新性

 プロセッサアーキテクチャの移行において、Appleは2度成功を収めている。1度目はRosettaを用いて「PowerPC」プロセッサからIntel製プロセッサに移行した時、2度目は「Rosetta 2」を用いてIntel製プロセッサから独自のArm製プロセッサに移行した時だ。どちらの移行においても、エンドユーザーと開発者は一斉にアプリケーションを切り替える必要がなく、段階的に移行できた。

 Microsoftが初めてArmプロセッサ搭載PCでWindowsを動かそうとした時には、古い形式のアプリケーションと新しい形式のアプリケーションを同時に動作させる視点が欠けていた。今回はエミュレーションであるPrismを実装することで、x86やx64アーキテクチャ向けの命令を「Arm64」向けの命令に動的に変換し、異なるアーキテクチャ向けのアプリケーションを同時に実行可能になった。筆者はシステム監視ツール「タスクマネージャー」(画面)で各プロセスのCPUアーキテクチャを確認するまで、アーキテクチャの違いを意識することはなかった。

画面 画面 タスクマネージャーに表示される実行可能ファイル。「Architec...」の列にCPUアーキテクチャが記されている《クリックで拡大》

 Prismの導入によって、Microsoftは総じて優れたアプリケーション実行環境を実現した。ただし一部のアプリケーションでは課題が残る。これはMicrosoftの問題というよりも、インストーラーがCPUアーキテクチャを確認する際の問題だと考えられる。筆者が直面した例は以下の通りだ。

Dropbox

 Microsoft Storeでオンラインストレージサービス「Dropbox」のデスクトップアプリケーションを入手しようとしたところ、軽量版の「Dropbox Lite」しか選択肢がなかった。これはArmプロセッサ搭載PCを使っているためだと思われる。「Armで動作するDropboxのバージョンはそれだけだ」という旨のメッセージが表示されたためだ。

 ただしインストーラーをDropboxのWebサイトから直接ダウンロードしてインストールしたらうまくいった。先ほどの画面にある「Dropbox.exe」は、Arm64アーキテクチャ向け実行可能ファイルであるのに対し、「DropboxUpdate.exe」と「DropboxCrashHandler.exe」はどちらもx86アーキテクチャ向け実行可能ファイルである点に注目してほしい。

Box

 オンラインストレージサービス「Box」のデスクトップアプリケーション「Box Drive」をインストールする際もエラーが発生した。インストーラーは問題なく実行できるものの、インストール後にBox Driveを実行すると、Armプロセッサ搭載PCでは動作しないためWeb版のサービスを使う必要があることを伝えるメッセージが表示された。

 これらの小さな問題を除けば、2カ月の使用期間を通じて、Dell XPS 13 9345は安定して動作した。筆者の体験は一例に過ぎない。MacからWindowsに移行したことで頭を悩ませる場面もあったが、それらを加味しても優れた体験だった。日常使いという点では十分かつ適切にテストできたと考えており、Armプロセッサ搭載PC向けWindowsは実用に足ると評価できる。


 次回は、Copilot+ PCが搭載するNPUに対する評価を紹介する。

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