CIOインタビュー:マイクロソフトのロン・マーケジック氏Interview

マイクロソフトのマーケジックCIOは、Windows製品を発売前から使う同社の顧客でもある。ビル・ゲイツ氏とスティーブ・バルマー氏という著名な2人の上司はCIOに何を求めているのだろうか。

2005年12月05日 16時04分 公開
[TechTarget]

 世界最大のソフトウェア企業、マイクロソフト。同社CIOのロン・マーケジック氏は、マイクロソフトのCIOは技術系であることが求められると語る。

 同社では市場に出す前の製品をIT部門で積極的に利用し、ビジネス面でのインパクトや計画に関するフィードバックを提供しているという。

 ビル・ゲイツ会長とスティーブ・バルマーCEOという著名な経営陣から「組織の変革者」たることを求められているマーケジック氏に、同社の課題やSOX法への取り組みについて聞いた。

 「彼は社員であるだけでなく、顧客でもある」――どこかの男性用育毛剤メーカーの宣伝文句のようなフレーズだが、マイクロソフトのCIO、ロン・マーケジック氏にも当てはまるかもしれない。同氏はマイクロソフトの社員であるだけでなく、同社の製品が市場に出回るよりもずっと前にそれを使うWindowsユーザーでもあるのだ。世界最大のソフトウェア企業のIT部門を統括する仕事というのは、どのようなものなのだろうか。しかも上司の2人は、業界で最も著名な人物なのだ。

―― あなたはCIO(最高情報責任者)に就任する前からマイクロソフトに勤務していたわけですが、そのときの経験が何か役立っていますか。

マーケジック この仕事に就く前は、前CIOの下でマイクロソフトのグローバルインフラの運用を担当していました。その前は、ビジネスアプリケーションを担当していました。つまり、ITアプリケーションとインフラの両方の部門の業務を経験したわけです。CIOの仕事にはアプリケーションとインフラの両面がありますから、両方の業務を経験したのは良かったと思います。

―― あなたはビジネス系の人間ですか、それとも技術系ですか。

マーケジック マイクロソフトに入る前は、アンダーセンコンサルティング(アクセンチュア)に勤めていました。ビジネス系と技術系の両方の道を歩んできたわけです。ビジネス系の人間に言わせれば、わたしは技術志向が強すぎるようですが、技術系の人々はわたしのことを事務的すぎると言います。マイクロソフトの場合、CIOは技術系の人間であることが求められます。経営陣が技術系だからです。

―― 現在の最大の課題を3つ挙げてください。

マーケジック 業務の複雑さに対処することです。企業としてのマイクロソフトは、ますます複雑化しています。当社がXboxを手掛けるなどと、3年前には誰が想像したでしょうか。これはIT部門に大きなプレッシャーを与えています。当社の規模の大きさも、複雑さを増している要因の1つです。これまで人員削減を実施した年は一度もありません。当社は毎年、規模が拡大しているのです。

 もう1つの難問は、IT部門に対する要求です。あなたのインタビューで、スプリントのCIO(マイク・スタウト氏)は、ITサービスアプリケーションに対する飽くなき要求について話していましたが、まさに同感です。われわれも同じ課題を抱えています。競争優位を実現する方法については非常に多くのアイデアが存在します。このため、正しい要求を見極め、最も重要で付加価値の高いリクエストにリソースを集中する必要があります。これはCIOにとって共通の課題です。ビジネス上の問題を解決するために、IT部門に非常に多くの要求が投げ掛けられます。このため、IT投資が適切な分野に振り向けられるようにするためのプロセスを確立する必要があります。また、デリバリを行った後でシステムから価値を確実に引き出す価値実現プロセスを確立する必要もあります。この点が見過ごされがちです。すなわち、デリバリ後に見直しを行い、要求されたメリットを実現するという作業です。

 3番目の課題は、常に優秀なスタッフを確保することです。CIOの仕事では、スタッフのリーダーシップ育成が大きな比重を占めます。わがIT部門の業務はスタッフに100%依存しているため、彼らが深い技術的スキルに加え、リーダーとしてのスキルおよび経営スキルも身につけるよう常々指導しています。IT部門というのは、各製品チームに対する人材供給プールです。最も優秀なITスタッフを製品チームに送り込むわけです。ですから、絶えず優秀な人材を補充することが、わたしの任務の1つです。最終的には、彼らのITスキルが優れたソフトウェアを顧客に提供することにつながるのです。

―― ビル・ゲイツ氏およびスティーブ・バルマー氏と会う機会は多いのですか。また、両氏はCIOの役割をどのようにみているのですか。

マーケジック 彼らとはよく会います。ビルとは四半期に一度会います。彼は、製品を改善する方法に関するIT部門の意見を重視しています。彼は、マイクロソフトプラットフォーム上でマイクロソフト製品を早期に使用する顧客としてわたしを見ています。また、経費を削減し、セキュリティを高め、価値を付加するために何ができるのかを知りたがっています。われわれが真剣に取り組んでいる課題の1つが、マイクロソフトの製品が顧客の手に渡る前に、当社のIT環境の中でそれを積極的に利用するということです。これが当社のユニークな点です。ビルもこの取り組みに力を入れています。

 スティーブは、ビジネスでITをどのように活用するかに関心を持っています。彼は、ビジネスデリバリモデルを改善し、サービス業務を製品部門の業務と同じくらい効率化するためには、ITをどのように活用すべきかを知りたがっています。また、Longhornに関しては、企業のIT部門のために新たな価値を創出するためには、ITによって何ができるかを知りたがっています。2003年の製品開発では、ビルとの連携作業でITが大きな役割を果たしました。スティーブは、全体的なビジネスの視点について話してくれます。

 2人とも、組織の変革者になり得る立場の人間としてCIOを見ています。CIOには、組織の変革者になる大きなチャンスがあると思います。彼ら(ゲイツ氏とバルマー氏)も同じ考えです。CIOというのは企業を横断的に貫く業務機能であり、ほかの多くの人にはない視野を持っているのです。マイクロソフトの場合、IT部門では、ほかのすべての部門で起きていることを見渡せます。われわれは製品を社内で運用し、ビジネス面でのインパクトや今後の計画に関するフィードバックを提供することができます。

―― マイクロソフトは、全世界のスキルを持った人材を活用しているグローバル企業です。オフショアアウトソーシングは中間階層を没落させ、米国の競争力を海外に流出させているという批判にはどう応えますか。

マーケジック 当社では、アウトソースしている業務もあれば、インソース(内製化)している業務もあります。この戦略は、わたしが入社して以来変わっていません。マイクロソフトはこれまで常に、グローバルデリバリのためにグローバルな環境で事業を運営してきました。アプリケーションの開発も世界各国で行ってきました。ほかの大企業のCIOも同じ考え方です。「われわれはこれまでグローバルな事業を運営してきたが、今になって、このオフショアアウトソーシングがマスコミで大きく騒がれている」と彼らは言っています。すべてのグローバルニーズにレドモンド本社から対応することはできません。米国だけにフォーカスしたシステムやツールを提供するわけにはいかないのです。こういった製品では、アルゼンチンのユーザーのニーズに対応することができないからです。

―― 競合他社の技術を見て、「こちらの方が業務に役立ちそうだ。試してみるべきではないだろうか」と思ったりしたことはありませんか。

マーケジック そのような場合には、当社の製品を彼らの製品よりも優れたものにするというのがわれわれの戦略です。他社製品を社内で使ったりはしません。製品を改良するよう、製品チームにハッパを掛けるだけです。この10年間を見れば、企業をサポートする技術に関してマイクロソフトがいかに大きく前進したか分かるでしょう。製品をワールドクラスに押し上げるというのが当社の戦略です。自社製品を社内で利用することにより、低いコストと充実したサービスというメリットを得ています。SLAやセキュリティも改善されました。わたしはマイクロソフトの顧客として満足しています。わがIT部門は当社の製品を推進しているのです。

―― 中小規模の企業のCIOとあなたとの間に共通する課題はあるでしょうか。

マーケジック どの企業でも、CIOが対処すべき問題は似たり寄ったりです。ただ中小規模の企業のCIOは、自社の競争優位を生み出す役割も多少は担う必要があるでしょう。内部統制という役割に関しては、われわれと同じです。彼らと話をすれば、抱えている問題やソリューションは、われわれの場合とほとんど同じかもしれません。

―― サーベンス・オクスリー法(SOX法)への対応準備はできていますか。コンプライアンスに関しては出費を強いられていますか、それとも以前から社内管理体制が整っていたのですか。

マーケジック 内部統制に関してきちんと文書化された強固なプロセスがあり、それを定期的に検証するというのは、素晴らしいことです。マイクロソフトでは、投資家に情報を全面的に開示することがアドバンテージをもたらすと考えています。SOX法は、情報の全面開示、企業に対する信用、強固な内部統制を柱とする当社の戦略にぴったりと合致します。404条の適用期限は延期されましたが、当社ではいち早く、数週間前に終了した前会計年度に、404条に規定された証明書を作成しました。これはかつてない取り組みです。四半期ごとに内部統制が強固であることを確認するとともに、変更点を中心に統制内容を評価しています。

 SOX法で当社のIT部門の仕事が特に増えたわけではありません。むしろ明確な文書化を確実に行うことが可能になりました。CIOの立場から言えば、当社の内部統制の厳格さのレベルに大いに満足しています。

(この記事は2004年7月28日に掲載されたものを翻訳しました。)

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