IT変革力【第38回】
「オープンシステム間ネットワークのカオス状況」への危惧
昨今、大手企業を筆頭として導入されはじめているオープンシステム。内部統制対策としても注目されています。しかし、その新世界と期待されているオープンシステムでも、マイナスの要因がないわけではありません。今回は、あえてその影の部分について着目してみました。
2007年2月10日付の日経新聞に、「システム障害 対応力強化」という特集記事が載っていました。NTTデータ、日本IBM、NEC、富士通、日本ユニシス、新日鉄ソリューションズの取り組み内容が記事になっていました。特に、内部統制上のリスク対策として「システム障害対応」と「開発委託先に任せてあるソフトの品質管理」が挙げられていました。IT業界では、景気回復のおかげで金融業界や政府関係からの受注が伸びています。そのような好景気の中で「システム障害 対応力強化」が記事になる背景として、一体、何が進行しているのでしょうか。日経新聞の記事は非常に前向きの内容ですが、筆者はかなり影の要因もあると見ています。
この点に関して、上記企業にかかわらずベンダー数社の幹部と話をするうちに、いろいろと深刻な問題があると思われる点に気付きました。それは単にITベンダーだけではなく、情報子会社も含む企業のIT部門にも全般的に見られる傾向と言えるかと思います。
保守、運用業務に若手がやる気を失っている
筆者が少し深刻だと思うのは、若手のIT技術者が、追加開発を含む保守運用関連の業務にやる気を失っている点です。全くの新規開発業務であれば、若手のIT技術者にとっても結構楽しく、強い動機付けで業務に臨めるのですが、機能追加や保守、運用業務になるとそうはいかないようです。無論、このような保守、運用を若手が嫌う傾向は今に始まったことではなく、大型汎用機(レガシーシステム)全盛の時代からありました。しかし、高い信頼性が求められる金融業界や政府においてさえ、オープンシステムへの移行がスケジュールをさかのぼり始め、ようやく業界全体としてオープン化が最終段階に入ったと思われる現在、オープンシステムで機能追加を含む保守、運用業務に若手がやる気を失っているという傾向が見られます。
新世界と期待されるオープンシステムの一体、何が問題なのでしょうか。
オープンシステム化とは同時にITシステム部門のリストラの意味
日本のIT産業にとって不幸なことに、大型汎用機(レガシーシステム)からのオープンシステムへの初期の移行は、金融バブルの崩壊後、我が国の経済界が「失われた10年」と呼ばれるほど、長い不況のトンネルをくぐり抜ける中で行われました。その結果、不況に直面したユーザー部門から、オープンシステム化によるコスト削減への過剰な期待がかかりました。ソフトウェアの開発、保守、運用は人件費の塊であり、ある意味で金食い虫と言えます。ITシステム部門や情報子会社、ITベンダーにとっては、ハードウェアとソフトウェアのコスト削減とともに、組織の身を削る(=サポート体制の縮小)しか打つ手はなかったとも考えられます。無論、ユーザー部門も早期退職優遇制度などの実施で組織の身を削っていたわけですから、一概にIT関連部門だけが被害者とも言いきれませんが。その結果、オープン化以上にサポート体制や開発、保守、運用体制、中でも保守、運用体制が縮小化されることになりました。筆者の目からは、こういう事例が多数見えます。
未確立な方法論とオープンシステム間ネットワークのカオス状況
その上でオープンシステムに対応した業界標準、国際標準の設計図面や設計書の書き方などの方法論は未整備でした。21世紀に入った現在でこそ、EA、ITIL、PMBOK、EVM、BSC、ERD、DFDなどの設計図面や各種方法論が業界を超えて標準化され始めていますが、オープン化が始まった90年代には、これらはまだ未整備の段階でした。おまけにオープンシステム化により大型汎用機(レガシーシステム)におけるシステム開発で、最大の問題であった「人月の神話」の問題が手付かずのまま残り、そのままオープンシステムの世界に引き継がれました。
「人月の神話」というのは、ソフトウェア開発や保守というのはモジュールの独立性の担保が難しく、担当するIT技術者の属人的なノウハウや図に描けないほど入り組んだIT技術者間の属人的ネットワークに支えられているため、人員の交代や増強に難があり、規模拡大の点から限界があると昔から言われている問題点です。
大型汎用機(レガシーシステム)システムがオープンシステム化された結果、ITシステム部門には多数の小さなオープンシステムがバラバラに管理される(=小さなプロジェクトチームが乱立する)こととなりました。ところが、各システムはお互いに大なり小なり連結された運用が求められます。
その結果、あるITシステムへの機能追加や機能修正が行われた場合、その影響が一体、どの範囲まで及ぶのかはっきり分からない状況が出現しました。
筆者はこれを「オープンシステム間ネットワークのカオス状況」と呼んでいます。大型汎用機(レガシーシステム)システムの時代には、同じ箱(コンピューター)の中に入っていた「異なるITシステム間の連携」は、現在と比べて比較的うまくいっていました。しかし、オープンシステムの時代になれば、箱(コンピューター)の機種も全く別、開発ベンダーも全く別、設計図面の書き方もお互いに異なるITシステム同士が連結されている例も少なくありません。
若手IT技術者が育たない、短期で辞めるという悲しい悪循環
最近、経済界では「七五三問題」という言葉が流行っています。中卒の方の7割、高卒では5割、大卒の場合には3割の社員が会社に就職後、3年以内に最初に勤めた会社を辞めるという社会現象です。この点はIT技術者も例外ではありません。
こうして会社を替わる自由を持っているIT技術者志望の若手社員は、入社するや否や「オープンシステム間ネットワークのカオス状況」を押しつけられます。また、オープンシステム間のネットワ-ク以上にわけの分からない、図に描けないほど入り組んだ先輩たちの属人ネットワークというサポート体制の中で、多くの若い社員が嫌気がさし、短期で会社を辞めるケースや、実際、ほとんど成長しなくなるという深刻な例も耳にしています。理系出身者がなぜもっとも簡単だと言われるレベルの情報処理の試験にすら合格しないという話になるのでしょうか。
成果主義や目標管理の行き過ぎだけのせいとは、到底思えません。太陽の日が当たり、適度な水と養分が与えられてこそ植物は成長します。しかし、暗いじめじめした環境下では植物は育ちません。
日経新聞の「システム障害 対応力強化」という記事では、ベンダー各社共、10年生が若手を指導したり、5年間は統一研修を行うなど、教育の充実によって問題を乗り切ろうとしています。果たして、教育だけの問題で事態は解決するのでしょうか。次には中国におけるオープンシステム開発の時代が待ったなしにやって来ます。
昔、経営学者のハーズバーグは「動機付け衛生理論」を提唱しました。若手社員に仕事の意味を理解させ、しっかりした動機付けを行うための教育施策とともに「オープンシステム間ネットワークのカオス状況」をどうにかしないと日本のIT業界は早晩、オフショア開発どころの状況ではなくなるのではないかと筆者は危惧しています。
(野村総合研究所 社会ITマネジメントコンサルティング部 上席研究員 山崎秀夫)
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