「自己暗号化ディスク」は企業にとって最適な選択か
「HDD暗号化」の“不都合な真実” 初期パスワードでデータが“丸見え”?
データを自ら暗号化するHDDである「自己暗号化ドライブ」(SED)の導入で、企業のセキュリティは向上する。だがSEDにもリスクはある。本稿ではSEDの導入に当たって必要な知識を紹介する。
データの書き込み時に自動的に暗号化をするHD「自己暗号化ドライブ(SED)」を使うと、データ流出の問題を解決できるといわれている。だがSEDが原因で発生する問題も少なくない。本稿では、SEDの潜在的な脅威と企業の事例を紹介する。
情報セキュリティの鍵は、機密データを暗号化して、企業情報の機密性を保証することにある。だが、ほとんどのエンドユーザーは暗号化の適用を難しく感じている。また企業の管理者は、全従業員のデバイスに暗号化ポリシーを強制するのに苦労していることが少なくない。SEDは、エンドユーザーが意識しない形で保存する全データを常に暗号化できる。そのため暗号化に関する問題の潜在的な解決策となる。
明るみに出たSEDのリスク
SEDは、コントローラー部分に組み込まれた専用の暗号化プロセッサでデータの暗号化/復号処理を実行する。そのためデバイスのCPUを使用するソフトウェアベースの暗号化製品で生じがちな、パフォーマンスのオーバーヘッドを回避できる。
廃棄や再利用も、暗号的データ消去(Cryptographic Erase)を使用すれば簡単にできる。複数回のデータ書き込みによるデータ消去は、ディスク容量が大きいと何時間もかかる場合がある。一方の暗号的データ消去は、暗号鍵の変更によって一瞬で完了する。
SEDは常時有効の暗号化が簡単に実現でき、企業が政府や業界が定めるデータプライバシーと暗号化の規制を順守するのに役立つ。従業員のノートPCが紛失や盗難に遭っても、SEDの内容を読み取ることはできない。
だが、ある研究者のチームが、Western Digital製の幾つかのSEDにセキュリティの欠陥があることを明らかにした。その欠陥とは、攻撃者がSEDに物理的にアクセスできる場合、非常に簡単に(場合によっては復号パスワードを知らなくても)データを復号できるというものだった。
会計事務所KPMG Canadaの研究者は、SEDを使用するノートPCで3つのデータ復元方法を実演している。その結果、暗号化仕様であるTrusted Computing Group(TCG)の「Opal Security Subsystem Class(Opal SSC)」とMicrosoftの「eDrive」に準拠したSEDは、ノートPCがスリープモードで電源が完全にオフになっていない状況ではデータのセキュリティを保証できないことが実証された。その原因は、スリープモードではSEDに電力が供給され続けており、データがロック状態にならないことにある。
暗号化を適切に実装することは、困難な課題であり続けるだろう。ただしWestern Digital製品が脆弱(ぜいじゃく)だったのは、初歩的なミスが多かったことと、暗号化プロセスの実装が不適切だったことに起因している。
例えば、ある事例ではSEDのロック解除パスワードを暗号で保護するための乱数が、コンピュータの時計の現在時刻に基づいており、非常に短時間でパスワードを破ることができた。また一部のSEDでは、デフォルトのパスワードがデバイスに保存されていた。そのためエンドユーザーがパスワードを2回変更するまでは、デフォルトのパスワードを使用してSEDのデータを復号できたという。
このような研究から、十分にテストや調査がされていない暗号化製品を使用するリスクが浮き彫りとなった。暗号化製品はコンプライアンスの監査では好ましく評価される。だが実際は、保管中の機密データに必要な保護を提供していない可能性があるのだ。
ハードウェアやソフトウェアの暗号化製品には、暗号化の仕組みとその実装方法に関するドキュメントが用意されている必要がある。また企業には、暗号化製品が何らかの形でサードパーティーによる監査に合格するまで、暗号化製品の使用を検討しないことをお勧めする。オープンソースの暗号化ツールを利用することを多くの専門家が推奨しているのは、ベンダーの保証に頼らなくても、ツールが詳細に分析されているからだ。
SEDを使用している企業やHDDを暗号化しているだけの企業は、データが暗号化されるのはデバイスの電源が完全にオフになっているときのみであることを認識し、デバイスをスリープモードにしないよう従業員に周知徹底すべきだ。またSEDは、暗号化プロセスや機能にパッチを当てて最新の状態に保つために、通常のHDDよりも頻繁にファームウェアのアップデートが提供される。そのためSEDはパッチ管理プロセスにも組み込む必要がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
事例
[株式会社ラクス] どうすれば「変革を楽しむ組織」になれるのか? 事例に学ぶ、未来への一歩 -
製品レビュー
[デル・テクノロジーズ株式会社] 変化するサイバー脅威に備える、これからのストレージの選び方 -
事例
[サイボウズ株式会社] 受注約1.5倍と年間2万3000時間超の業務時間を削減、日機装に学ぶDX実践術 -
製品レビュー
[サイボウズ株式会社] 人材不足にどう挑む? ものづくり太郎が語る、製造現場でのAI活用成功の鍵 -
市場調査・トレンド
[グーグル・クラウド・ジャパン合同会社] 金融機関はAIエージェント導入でどう変わる? 7つの変化から19の事例まで解説
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
いまIBM iエンジニアが直面する「5つの技術的課題」とその解決策
-
2
RAGで「データをAIに送る」運用が限界を迎えている理由
-
3
Microsoft 365侵害企業の9割はMFA導入済み 1002人調査で見えた盲点
-
4
SAPの負荷増に苦しむZeissが「リアルタイム分析」「安定運用」を両立させた道
-
5
なぜ「Claude Code」拡張は消しても危ないのか? Cursorで不正版配信
-
6
「Kubernetesプラットフォーム」に関するアンケート
-
7
PHPはそもそも必要か? 脆弱性で問われる自社サイト安全性と保守負担のバランス
-
8
半数がブルーカラー転向を視野に? ベテランエンジニアを追い込む“54歳の壁”
-
9
【基本情報技術者試験】データ消失リスクを防ぐ3つの「バックアップ手法」を比較
-
10
IT製品の導入に関するアンケート「セキュリティ」編
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
2
侵入から横展開まで27秒の脅威にどう立ち向かう? 防御のカギがEDRの理由
-
3
有識者が語る、中堅中小企業に求められる最新のサイバーセキュリティ対策とは
-
4
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
5
10G回線の真価をフルに享受するには? 導入前にチェックしたいポイント
-
6
なぜAIは組織で定着しないのか? 全社展開を阻む「3つの壁」と突破のヒント
-
7
パスワードレスへの移行で失敗しないためには? 導入・運用上の注意点を解説
-
8
自社のセキュリティ対策は大丈夫? 自己診断リストで対策の優先順位が分かる
-
9
ランサムウェア攻撃“究極の対策”はこれだ
-
10
Microsoft 365のメールセキュリティ、3つの“死角”と追加で検討すべき対策とは
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー