“脱Excel”か“活Excel”か
「取りあえずExcelでワークフローをまとめてみよう」の“わな”に陥るとき
新規事業の立ち上げ時、チームのワークフローを取りあえずExcelでまとめるのは自然な流れでしょう。しかし、そのExcel帳票をチームの業務に合わせて改善し使い続けることには、潜在的なリスクがあります。
個別ワークフローはなぜ生まれるのか
企業は事業を継続し、さらに発展させていくために、新しい製品やサービスを提供し時代の変化に対応していかなければなりません。そうした製品やサービス、それに付随する機能を円滑に提供するために、企業は業務の流れ、つまりワークフローを整備・構築する必要があります。
例えば既存製品の販売を終了し、その代替となる製品を販売するような場合は、既存のワークフローの変更で済みます。しかし、これまでと異なる機能の製品を販売したり、試験的に新たなサービスの提供を開始したりする場合は、既存のワークフローでは対処できないことがあるため、新たなワークフローを検討しなければなりません。
中小企業においてもワークフローシステムを導入している企業は決して少なくないと思います。そうした中小企業が新しいワークフローを整備・構築する場合、
- フローが完全に固まっていない
- 利用頻度が想定できない
- 継続して使用するか分からない
などの理由で、情報システム部門に依頼しても、ワークフローシステムを使用させてもらえないことが少なからず起こり得ます。
このような状況においては、Excelの帳票を使用してフローを整備することは、それほど悪い選択肢ではありません。往々にして開始当初は、ワークフローに関わるのは、その製品/サービスの企画や開発に携わってきた部門、関係者に限定されるため、ワークフローも単純なものになることが多いからです。関係者の間である程度ルールを決めておけば、例外事項が発生しても関係者間でコミュニケーションすることで、迅速な個別対応が可能です。また、都度こうした個別対応の内容をルール化し、ワークフローに反映していけば、次第に洗練されたワークフローになっていきます。
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ワークフローをExcelから他システムに移行する
ワークフローがExcelの“わな”に陥るとき
実際に製品やサービスの提供を開始して軌道に乗ると、増加する業務に備えるために、関わる部門や関係者が増えていきます。短納期対応など特殊な業務も増加します。加えて、それまでは関係者内で共有するだけで済んでいた情報について定期的に報告を求められるようになる、といった付帯的な業務も増えていきます。新たな業務が生まれるたびにワークフロー図を作成し、報告レポート用に対応履歴データを蓄積し、特殊業務用に帳票を修正していくことになります。これらの各場面でExcelを使用し続けていくうち、個別業務にのみ最適化したExcelがあふれることになります。
このような事態に陥ってしまう原因は幾つか考えられます。第一に、Excelは個々のPCにインストールするソフトウェアであり、その使用方法に制限のないことが挙げられます。Excelは表計算ソフトでありながら、さまざまな業務に利用できる多機能なソフトです。ビジネスに携わる人であれば、スキルの差はあるにしろ、全くExcelが使えない人はかなり少数でしょう。このような便利なソフトが目の前にあれば、取りあえず使用して目の前にある課題を解決したくなるのも無理はありません。
第二に、業務環境の変化に備えるには、ある程度時間がかかることも要因でしょう。業務量が増加しても、対応する人員をすぐに増やすことはできません。まず企業内部で人員を移動するか、外部から新たに人を採用するかを検討し、募集を掛ける必要があります。
次に人員が入ってきた後には、業務を安定的に遂行できるように研修やOJT(職場内訓練)を実施するなど、人材教育にも時間がかかります。もともとの関係者だけの小規模な組織だった時代には“暗黙知”として共有されていた業務ノウハウも、新たに参加した人は共有していませんから、都度教えたり、FAQ(よくある質問集)を作成したりする必要もあるでしょう。こうした資料の作成にも時間がかかります。このようなことをしている間にも新たな変化が訪れるため、取りあえず業務を回すことが優先事項となり、抜本的な対策をする余裕がなくなってしまうのです。
こうした状況下でも業務に大きな影響を与えない小さな改善はできるので、少しでも効率良く業務を遂行するためにExcelの個別最適化を進めてしまうことにつながります。
最後に、上記のように事業を回していると、抜本的なワークフローの改革をいつやるべきか、タイミングが判断できないという要因も挙げられます。それまで整備してきた「それなりに業務を動かせるワークフロー」の見直しのタイミングはなかなか判断しづらいものです。いつ外部的な要因による変化が起こるかは予測できないことも、判断を鈍らせる要因となります。
個別最適化のリスクと対応方法
このようにして、企業内には個別ワークフローがまん延していきます。「業務が回っているのであれば問題ないのでは」という意見もあるかもしれませんが、個別のワークフローの増加により、潜在的にさまざまな問題を抱えることになります。まず、それぞれの部門が個別化を推し進めることで業務の処理が複雑化し、そのことが原因となる業務ミスが増加します。小さなミスであれば、たいした問題にならないこともありますが、大きなミスが発生した場合、企業の信用問題に発展することもあり得ます。
次に、自部門の業務への個別最適化が他部門の業務に負担を強いる事態を招くことも考えられます。個々の部門が独自の業務フローに従い、個別の帳票で依頼をしてきたら、その依頼を受ける部門の業務も個別対応になってしまうからです。一般的に製造現場では、製造ラインを効率的に動かすために各工程に対して「後工程はお客さま」という意識を持つような指導を受けていますが、このような意識付けの指導を製造部門以外ではなかなか受ける機会がないことも一因でしょう。
このような潜在的な問題を、個々の部門が独自に解決することは相当に困難です。ワークフローシステムを導入しているのであれば「ワークフローシステムにワークフローを乗せる期限を決めてしまう」などの社内ルールを設定すべきでしょう。最近では、ワークフローシステムよりも高度な機能を備えたBPM(Business Process Management)システムをクラウドサービスとして安価に利用できる環境が整っています。BPMシステムの中には、ワークフロー作成操作を視覚化して分かりやすくしている製品も多く、操作の習得が容易になっています。ワークフローの登録作業をシステム部門から担当部門へ移管することも可能です。継続的にワークフローを改善していくには、このようなBPMシステムの利用も有効でしょう。
村山 聡(むらやま・さとし)
1971年愛知県生まれ、名古屋大学経済学部卒、中小企業診断士。
IT企業在職中に、単一業種においてキャリアを積んでいくことに疑問を感じ、どんな業界、職種でも通用する知識を得るべく中小企業診断士を取得。複数社を経て、現在の勤め先にて、コンサルタントとして、データを活用した業務効率改善に取り組む。
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“脱Excel”か“活Excel”か
ほとんどの企業が使っている表計算ソフト「Microsoft Excel」(以下、Excel)。便利なツールですが、本来の目的を超えて“使いこなし過ぎる”ことが、かえって業務効率を低下させてしまったり、業務の属人化につながってしまったりする場面があるのではないでしょうか。 このコラムでは、日常業務でよく見掛けるExcelの活用例を紹介しながら「こんな場面は脱Excelを考えた方がよい」「こういうExcelの活用法はお薦め」といった知見を紹介していきます。
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