人員の削減や増強も可能に
事例:分析機能を搭載したERPで生産性向上を実現、何が成否を分けたのか?
組み込み型AI技術を搭載したERPが従業員の生産性を向上させた、幾つかの米国企業の事例を紹介する。
従業員の生産性を高めるERPの推進に主導的な役割を果たすのは、組み込み型アナリティクスを備えた財務アプリケーションなどのバックオフィスツールだろう。しかし、こうした改善が企業全体の生産性へ及ぼす効果はまだ限定的だ。
従業員の生産性を本格的に向上させるには、バックオフィスツールからロボットまで、業務のあらゆる側面を変革するシステムが必要だ。だが、そのようなシステムの普及はまだ進んでいないと専門家は見ている。
法人向けITレビューサイトを運営するG2 Crowdの最高研究責任者、マイケル・ファウセット氏は、組み込み型AIを備えた財務アプリケーションは「Starbucks本社の生産性向上には役立つかもしれないが、バリスタ(コーヒーを入れる職種)たちにとっては何の役にも立たない」と述べた。
従業員の生産性向上のために人工知能(AI)関連技術やロボット工学などを企業が取り入れるとしても、その使い道は「かなり限られている」とファウセット氏は指摘する。
経済の専門家たちは、生産性上昇が顕著に現れるのは、先進技術が広く浸透したときだと見ている。
Rubin Worldwideの技術経済専門家、ハワード・ルービン氏は「全国レベルや世界レベルで(生産性が)明確に上昇するには、大部分を占める旧来企業の投資や導入がまだ不十分だ」と語った。
ビジネスに変化をもたらすERPベンダーのツール
ERPベンダーが自社システムやクラウドを介して提供するツールは、アナリティクス技術の活用を推進している。
GoFresh Produceは、米国の4つの州で青果を販売している企業だ。同社はERPソフトウェアベンダーVAIのアナリティクスシステムを活用してビジネスモデルを大幅に刷新した。
同社では以前、パイナップルなどの果物をカットする作業を外部に委託していたが、それを自社で作業するように変えた。
そこで、5万平方フィートの倉庫に2万平方フィートを増設して、カット専用の作業施設を用意した。
同社のビジネスアナリストを務めるデービッド・マクミロン氏は、果物や野菜をカットするのに必要な全ての費用を計算し、原料、人件費、パック詰めなどあらゆる経費を細かく分析した。
カット作業を自社でできることは分かっていたが、「誤った価格を設定したり、コストの把握が不正確だったりすれば、成功しなかった」とマクミロン氏は話す。
同社は組み込み型の機械学習アナリティクス機能を備えたVAIの「S2K」というソフトウェアを導入した。「もしこれがなかったら、表計算ソフトウェアと計算式を使うしかなかっただろう」とマクミロン氏は話す。
S2Kは作業工程をモデル化し「(自社でのカット作業の)現実に目を開かせてくれた」(マクミロン氏)という。
GoFresh Produceはカット作業施設を2018年に操業開始した。S2Kがなかったら、自社作業開始までもっと時間がかかることになったとマクミロン氏は考えている。「S2Kのおかげで余分な人件費をかけずに済んだ」と同氏は語った。
人員の削減や増強が可能に
不動産仲介事業者のBerkshire Hathaway HomeServicesで上級会計士を務めるジェシカ・カーシーズ氏は、Vena Solutionsの企業業績管理ソフトウェアを導入したことによって大幅な生産性の向上を実現した。同社はそれまで業績管理の大半に表計算ソフトウェアを使用していたが、Vena Solutionsのソフトウェアに切り替えたことで、予算を個人オフィス単位まで細分化できるようになった。以前はそうした細かい管理ができなかった。
カーシーズ氏によると、生産性向上の成果には「財務分析に使える時間の増加と、レポート作成時間の短縮」も含まれるという。
以前は1週間かかっていたレポート作成時間を大幅に短縮できた。事業は成長しており、プラットフォーム使用年数は数年に及ぶ。Vena Solutionsのツールがなかったら「もっと多くの人員が必要になっていただろう」とカーシーズ氏は語った。
従業員の生産性向上が人員の増強を可能にした事例もある。
米国テネシー州の上下水道事業者White House Utility District(WHUD)では、漏水による損失額が年間約100万ドルに膨らんでいた。対象地域は農村地帯の約600平方マイルに及ぶ。漏水は発見が難しく、事後対応になることが多かった。漏水を調査するには異常音を探知する機器を主に使っていた。水圧低下の苦情を受けてから修理工事をすることが多く、まだ見つかっていない漏水が道路を破損する可能性もあった。
そこで水流のパターンから漏水を検知するセンサーを水道管に設置したところ、これまでよりはるかに正確で詳細な情報を取得できるようになった。OSIsoftの「PI System」というソフトウェアプラットフォームを使って各種機器からデータを収集し、データのクレンジングや構造化も実施した。このシステムはWHUDの専用ERPシステムと連携する。OSIsoftのソフトウェアもERPシステム全般と一緒に使用できる。
この刷新以前は、漏水の調査と修理の担当に割り当てられる人員は1.5人だった。
新しいセンサーとソフトウェアの導入でWHUDの漏水による損失は半減した。必要な計算は自動でできるようになった。このコスト削減により、漏水対策担当を4人に増やすことができたという。WHUDの技術者、パット・ハレル氏は「データに基づいて対応できるため、彼らの生産性は何倍も向上した」と説明する。
こうした一つ一つの改革が、いずれは全国レベルの生産性向上に結び付くかもしれない。一部の専門家によれば、AIとロボット工学の本当の変革はまだ訪れていないという。真の変革が到来した暁には、米国の生産性上昇率にも変化が表れるだろう。
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