オープンソースソフトウェアも活用し、AIプラットフォームの強化を続けるMicrosoft。バイスプレジデントのガスリー氏は、競合他社とは異なる戦略があると語る。
Microsoftは人工知能(AI)プラットフォームを強化している。このプラットフォームには「TensorFlow」や「PyTorch」などのオープンソースの機械学習フレームワークが含まれ、「Apache Spark」ベースのサービスである「Azure Databricks」と統合されている。AIモデルの相互運用性を実現する「ONNX」(訳注)のサポートも含まれている。
訳注:ONNX(Open Neural Network Exchange)は学習モデルのフォーマット。ONNXをサポートするディープラーニングフレームワーク間で学習モデルを共有することができる。
開発者は、「Microsoft Azure」の組み込みのサービスを使用して音声や画像を認識するアプリケーションを開発できる。また、デジタルアシスタントを作成するためのbotサービスもある。
AIプラットフォーム市場の競争は激化するだろう。「Amazon Web Services」「Google Cloud Platform」「IBM Cloud」もAI対応クラウドサービスを売り込むことに熱心だ。
AIに関して、Microsoftは開発者コミュニティーの比重を高めているように見える。同社でクラウド+AIグループのバイスプレジデントを務めるスコット・ガスリー氏は開発者としての背景を持ち、Microsoft独自のWebアプリケーション技術「ASP.NET」を共同開発した経験がある。同氏はエグゼクティブバイスプレジデントとしてクラウド、Windows Server、データベース、CRM、ERP、AIプラットフォームなど、多岐にわたる事業に責任を持つ。
ガスリー氏は、MicrosoftのAIプラットフォーム戦略はAI対応ソフトウェアの開発者をサポートするものであると考えている。
「当社のビジネスモデルは、B2B(企業間取引)エクスペリエンスの提供と、パートナー企業やクライアント企業がその顧客にサービスを提供する際のサポートに特化している。AWSやGoogleのビジネスモデルが最終的にはエンドユーザーを対象としていることを考えれば、これは当社の差別化要因であり、その差は日に日に増している」(ガスリー氏)
米オレゴン州のクラフトビール醸造企業Deschutes Breweryは、MicrosoftのAIプラットフォームを使用している企業の一社だ。同社で運用技術リーダーを務めるカイル・コタイチ氏は次のように語る。「3〜4年前、当社は製造オペレーター、ビール醸造者、品質技術者にデータをリアルタイムに提供する方法を模索していた。導入したツールの一つが、手動による測定と実データの間のギャップを埋める機械学習モデルで、これは当社のプロセスに不可欠になっている」
地理情報システムを提供する企業Esriでソリューションエンジニアを務めるジョエル・マッキューン氏によると、機械学習は同社のソフトウェアにおいて大きな役割を果たしているという。「当社は政府の大型プロジェクトに取り組んでおり、自然災害発生後の画像を調べている。米フロリダ州をハリケーンが襲ったときパナマシティービーチが大きな被害に遭った。当社はその翌朝航空画像を収集した。損壊した建造物を認識するモデルを構築し、ファーストレスポンダー(医療資格を持たない救助者)がどこで生存者を探せばよいかを把握できるようにした。また、封鎖されている道と損傷している道を見極め、ファーストレスポンダーが行ける場所と行けない場所を認識できるようにするモデルもトレーニングした。これは実際に命を救うソリューションだ」
契約管理の専門企業IcertisもMicrosoftのAIプラットフォームを運用している。同社の製品管理専門家であるビベック・バーティ氏は次のように語る。「当社のAIは、複数の言語を使った数十万もの契約を読み取っている。契約データの多くは構造化されていない。当社は『Azure Cognitive Services』のテキスト分析を使い、こうしたコンテキスト固有のスキルを構築した。つまりMicrosoftサービスの上位にパイプラインを構築した。これにより構造化データのように内容を検索できる」
デジタル資産管理企業MediaValetで技術部門の責任者を務めるジーン・ロサノ氏は、MicrosoftのAIプラットフォームによってクラウド内で機械学習が可能になると考えている。「問題は、コンテンツの作成ではなくコンテンツのライフサイクル管理であることを理解した。システムエンジニアは絶対に雇わないと自分に言い聞かせ、Azure上で構築することにした。当社が使用しているサービスの一つがAzure Cognitive Servicesで、クラウドとAIを結合すればMLaaS(Machine Learning as a Service)を用意できる」
Microsoftは、業界が取り組むべきAIの側面の一つに「倫理」があると考えている。「コンピュータが倫理に対応できるかどうかについてあまり議論がなされていないが、本当の論点はコンピュータが対応すべきかどうかという点にある」と話すのは、同社でアシスタントゼネラルカウンセルを務めるマイケル・フィリップス氏だ。
MicrosoftはAETHER(AI and Ethics in Engineering and Research:エンジニアリングと研究におけるAIと倫理)Committeeを設置している。「世には既にAI技術があり進化の速度も速い。欧州連合やシンガポールでは驚くべきことが幾つか起こっている。だがいまだにこれらの概念、フレームワーク化、実用化の間には本質的なギャップが存在する」(フィリップス氏)
同氏によると、MicrosoftやGoogleなどの企業は「政策立案者にさらなる関与を呼び掛けている」という。そして規制は、顔認識などの分野特有のアプリケーションに重点が置かれるだろうと話す。
「AI技術の開発はいったん中止すべきだという意見がある。懸念があることも分かっているが、この技術は非常に有望なので、凍結したとしても問題の解決にはならない」と同氏は語る。
Microsoftの開発プラットフォームは、エンドツーエンドの「Windows」「.NET」「SQL Server」によって特徴付けられてきた。だがAIの世界を独占しているのはオープンソースだ。同社は今この状況を受け入れている。
「当社が重視しているのは、独立して使えてHDFS(Hadoop Distributed File System)やSpark、PyTorch、TensorFlow、Pythonといったさまざまなオープンソースに対応する、構成可能で強力なコンポーネントを構築する方法だ。そうすることで顧客の柔軟性を最大限に高めようとしている」とガスリー氏。
データサイエンスのスキルを持たない企業がこれらのツールを使いこなすのは難しいため、同社は構築済みのAIサービスも提供している。Azure Cognitive Servicesは画像、知識分析、音声、言語、異常検出、そして検索の分野のAIを包括し、専門家ではない開発者がAIソリューションを構築することを可能にする。
ガスリー氏は次のように話す。「Microsoftの歴史を振り返ると、それは常に当社が取ってきたアプローチだった。かつてユーザーインタフェースを使って何かを構築することは、いついかなるときでも非常に困難だった。その後『Microsoft Visual Studio』『Microsoft Visual Basic』が登場し、その状況は変わった」
ガスリー氏のバックグラウンドと、開発者コミュニティーにMicrosoftが確立している実績を踏まえ、AIの観点から考えてみよう。すると、同社がサトヤ・ナデラCEOの下で消費者向け技術への関心を徐々に失いつつあることがより明確になる。
だがIT戦略という点で見ると、問題は開発者が自身を中心に据えたアプローチを受け入れるか、それともGoogleやFacebookなどから生まれる興味深く新しい技術を選ぶかということになる。
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