5Gが発生させる電磁放射線と健康リスクを巡る懸念5Gと健康被害【第1回】

各国、各モバイル企業が5Gの導入を急いでいる。だが、5Gが発生させる電磁放射線に対する懸念については十分に議論、研究されているとは言えないようだ。われわれは5G導入を急ぎ過ぎてはいないだろうか。

2019年06月20日 08時00分 公開
[Investigate EuropeComputer Weekly]

 5G携帯電話サービスは、2020年までに欧州連合(EU)全加盟国の少なくとも1主要都市で提供される見通しだ。2025年までには欧州全人口の4分の3が5Gを利用できるようになると予想される。

 だが、5Gによって発生する電磁放射線が健康に及ぼす長期的な影響について十分に検証しないまま5G導入を急ぐべきかどうかについて、論議が巻き起こっている。

 携帯電話や電波塔が発生させる放射線は非電離放射線であり、エックス線や放射性粒子のような形で細胞やDNAに直接的なダメージを引き起こすことはない。だが出力密度の高い電磁放射線は、電子レンジが食品を調理するのと同じような形で皮膚を熱して熱損傷を引き起こすなど、違う形の損傷を発生させる可能性がある。

専門家はさらなる調査を呼び掛け

 独立系の非営利団体Foundation for Research on Information Technologies in Society(IT'IS Foundation)は、新興電子技術の安全性と品質について研究している。

 IT'IS Foundationの代表で共同創業者のニルズ・クステル氏によると、5Gはデータ通信の需要増大に対応するため、2Gや3G、4Gよりもはるかに高い周波数帯を利用する。それによって、人の皮膚への出力密度も大幅に高まる。クステル氏は電磁場(EMF)安全基準のコンプライアンス試験に関わる複数の標準化団体のメンバーで、世界各国の政府機関で無線通信の安全性に関するコンサルタントを務めている。

 同僚の科学者でコンサルタントのエスラ・ノイフェルト氏は、「現在の基準では熱損傷を防ぐことはできない。次回のガイドライン改訂で基準を修正する必要がある」と言い添えた。

国際安全基準

 少数の例外を除く複数の大陸で、政府が5Gへのアップグレードを推進している。

 英国などの政府は、放射線規制についてドイツの非営利組織(NGO)のInternational Commission on Non-Ionizing Radiation Protection(ICNIRP)のアドバイスに従っている。ICNIRPはモバイルの安全性評価と放射線暴露基準の設定において、事実上の標準団体となった。

 さらに慎重な姿勢を取る国もある。フランスは幼稚園でWi-Fiを禁止し、小学校ではWi-Fi利用を制限している。キプロスも同じ措置を講じている。スイスは法的な拘束力のある予防的制限を設けており、モバイル通信の導入基準はICNIRPの基準より10倍も厳しい。イタリア、ポーランド、ルクセンブルクの暴露基準もICNIRPのそれよりも上限が低く設定されている。

 こうした慎重姿勢にも問題はある。イタリアでは上限が低く設定されているために、3Gのアンテナ基地を、基地の改修を伴わずに4Gにアップグレードするのが難しい。

 だがそれも、欧州全土に5Gネットワークが急速に普及する妨げにはなっていない。

 5G推進者は、車から住居、社会に至るまで、何もかもが「スマート化」できると主張する。通信業界は「革新」をうたう。

 だが、5G技術は大型の投資と大量のデータに対応できる容量の周波数帯を必要とする。5Gの導入が進めば携帯電話塔や基地局が大量に敷設され、街頭にはネットワーク機器が設置される。そうなれば、住民は現在のレベルを上回る高レベル電磁放射線にさらされるという批判もある。当然ながら、モバイル業界はそうした批判を受け入れていない。

 5Gによって発生するEMFが健康に与える潜在的リスクを巡る論議は過熱している。問題は、長期的な影響について誰も把握していないことにある。

健康リスクを巡る論議

 米ニューヨーク州立大学オルバニー校健康環境研究所の所長を務めるデービッド・カーペンター教授は、5Gとそれが健康に与える可能性のある影響について批判している。

 「私の判断では、携帯電話やWi-FiといったEMFの発生源に過剰にさらされたことに起因する脳腫瘍などのがんが増えていることは、既に明らかな証拠に裏付けられている」と同氏は言う。

 両性とも生殖機能が減退する「明らかな証拠」があるとカーペンター氏は主張。電磁波に対して過敏な人が、EMFが存在する場所で疲労感や頭痛、認知障害を訴えることもあると指摘する。

 「EMFの副作用については全般的に十分な研究がなされておらず、特に5Gに使われる高い周波数帯に関してはほぼ何の研究もされてこなかった」

 「5Gによって、あらゆる都市の道路で約6軒ごとにモバイル基地局が設置される。継続的な暴露なしに歩道を歩くことはできなくなり、ほとんどの人は自宅でも暴露量が増える」とカーペンター氏は危惧する。

 EMFが健康に与える影響について、公衆衛生上の懸念に対応できるだけの研究が行われたかどうかに対して疑問を投げ掛けているのはカーペンター氏だけではない。

 イタリアにあるビシェーリエ病院のコンサルタントで生物医学研究者のアゴスティーノ・ディ・シアウラ氏は、5Gに必要なミリ波帯が遺伝子や細胞をどう変化させ得るかについて研究してきた。同氏によれば、この技術では低消費電力が求められることからアンテナの数が増え、翻って放射線にさらされる量も増える。

 「この形態の環境暴露にさらされる人や脆弱(ぜいじゃく)と分類できる人の数の多さを考えれば、既に判明している結果だけでも十分に予防的原則を発動させる根拠になる」とシアウラ氏は話している。

第2回(Computer Weekly日本語版 7月3日号掲載予定)では、移動体通信事業者や関連企業からなる業界団体GSM Associationが行った健康リスクに関する研究結果を紹介する。

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