Alibaba Cloudが欧米市場に進出するための条件Alibaba vs. AWS、MS、Google【後編】

トップクラスのクラウドプロバイダーに成長したAlibaba Cloudだが、欧米市場への進出には苦戦している。欧米のユーザー企業はAlibabaをどう見ているのか。採用の可能性はあるのか。

2020年04月20日 08時00分 公開
[Sooraj ShahComputer Weekly]

 前編(Computer Weekly日本語版 4月1日号掲載)では、Alibaba Cloud最大の差別化要因とそれがもたらす効果を紹介した。

 後編では、欧米企業がAlibabaを採用する条件を検討する。

 AWSでヨーロッパ、中近東およびアフリカ(EMEA)におけるビジネス開発常務取締役と英国とアイルランドにおける常務取締役を務めるダレン・モウリー氏は、英Computer Weeklyのインタビューに次のように答えた。「GoogleとMicrosoftの2社を別にすると、Alibabaは規模、イノベーション、リソースの点で競争相手になる」

 「英国について言えばまだほんの始まりにすぎないだろうが、Alibabaをよく見掛けるようになった。世界の他の地域ではもっと顕著だろう」とモウリー氏は付け加える。

 モウリー氏は、AWSの方が多くの顧客ニーズを満たすことができると自信を見せるが、Alibabaは技術的に見て、多様性と幅広さの点で「面白いこと」をしていると話す。

 加えて、Alibabaは速いテンポで各国の規制、データ、プライバシーに対応していくと予想される。

 CCS Insightのマクワイア氏によると、ヨーロッパや北米に有効なAlibabaの参入実績が全くないのには、幾つか理由があるという。

 「主な理由は、他のクラウドプロバイダーに比べて機能のポートフォリオが劣っている点にある。特に、国内のデータセンター施設で提供される国際サービス、セキュリティ、コンプライアンスサービスが劣っている」(マクワイア氏)

 「最大の問題は、ヨーロッパや北米で、ミッションクリティカルなワークロードを運用する上でAlibabaを完全に信頼している大企業がほとんどないことだ」と同氏は続ける。

 CCS Insightが400人の上級IT意思決定者を対象に最近実施した調査で、遠距離からの企業データ処理に関して質問したところ、Alibabaは最も信頼されていない技術ブランドであるという結果となった。調査に参加した米国とヨーロッパの企業のうち、Alibabaを信頼していると回答したのはわずか3%だった。

 信頼がこれほど低い原因は、現在の地政学にある。同社がHuaweiと同じ道をたどるかどうかは、現時点では分からない。

 同時に興味深いのは、AWSが中国市場を詳しく調査しており、最近「AWS Marketplace China」をリリースしたことだ。中国企業がAWSを受け入れるかどうかは、AWSがセキュリティ、プライバシー、政治的緊張といった条件のバランスを取りながら、Alibabaと大きく差別化できる広範なサービスを提供していると見なされるかどうかに懸かっている。

 Microsoft、Google、Oracleなどは、Alibabaが総合的なクラウドサービスを提供していない証しとしてSaaSに進出していない事実を指摘するだろう。これはAWSに向けられている批判と同じだ。

 ITインフラのクラウド移行に関しては、多くの企業が既に米国の大手クラウドサービス企業3社のいずれかに決めていることは覚えておく価値がある。ロックインというほどではないとしても、すぐに他社のクラウドに乗り換えようとは考えないだろう。

 例として、John Lewis PartnershipでCTO(最高技術責任者)を務めるアンドリュー・マッキンズ氏の話を紹介しよう。同社は「Google Cloud Platform」を利用しているが、同社の子会社WaitroseはITインフラの統一を決めるまでAWSを利用していた。同社は既に大手クラウドプロバイダー2社を利用していたわけだ。

 マッキンズ氏は、Alibabaなどを検討しているが、採用するには特別なセールスポイントがなければならないという。

 「コモディティではなく、他社が提供していないものが欲しい」と、マッキンズ氏は英ロンドンで開催された「Google Cloud Next 2019」で本誌のインタビューに答えた。

 さらに、マッキンズ氏は次のように補足した。「組織のプラットフォームチームを動かして、アップスケールし、使い方のトレーニングを実施するのに必要な教育を考えると、何度も行いたいとは思わない。従って、クラウドプロバイダーを追加するのであれば相応の魅力が必要だ」

 他の企業が同様に考えているとしたら、Alibabaは大きな課題を抱えている。だが、だからといって今後数年間は太刀打ちできない、他の差別化要因を見つけられないと言っているわけではない。

 Alibabaが中国外での導入拡大を目指せば、AWSがAlibabaのホームグラウンドでの勢力拡大を試みるだろう。Alibabaにはその用心も必要だ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

隴�スー騾ケツ€郢晏ク厥。郢ァ�、郢晏現�ス郢晢スシ郢昜サ」�ス

技術文書・技術解説 ドキュサイン・ジャパン株式会社

導入が進む一方で不安も、電子署名は「契約の証拠」になる?

契約業務の効率化やコストの削減といった効果が期待できることから、多くの企業で「電子署名」の導入が進んでいる。一方で、訴訟問題へと発展した際に証拠として使えるのかといった疑問を抱き、導入を踏みとどまるケースもあるようだ。

プレミアムコンテンツ アイティメディア株式会社

VMware「永久ライセンス」を継続する“非公認”の方法

半導体ベンダーBroadcomは仮想化ベンダーVMwareを買収してから、VMware製品の永久ライセンスを廃止した。その永久ライセンスを継続する非公認の方法とは。

製品資料 日本ヒューレット・パッカード合同会社

無計画なハイブリッドクラウドが招く弊害、次世代のITインフラでどう解消する?

クラウドファーストの流れが加速する中、無計画に構築されたハイブリッドクラウドの弊害が多くの企業を悩ませている。ITオペレーションの最適化を図るためには、次世代のハイブリッドクラウドへのモダン化を進めることが有効だ。

市場調査・トレンド 日本ヒューレット・パッカード合同会社

ハイブリッドクラウド環境におけるワークロードの配置を最適化する方法とは?

ワークロードを最適な環境に配置できる手法として注目され、多くの企業が採用しているハイブリッドクラウド。しかし、パフォーマンス、法令順守、コストなどが課題となり、ハイブリッドクラウド環境の最適化を難しくしている。

市場調査・トレンド 株式会社QTnet

業種別の利用状況から考察、日本企業に適したクラウドサービスの要件とは?

システム基盤をオンプレミスで運用するか、データセンターやクラウドで運用するかは、業種によって大きく異なる。調査結果を基に、活用の実態を探るとともに、最適なクラウドサービスを考察する。

郢晏生ホヲ郢敖€郢晢スシ郢ァ�ウ郢晢スウ郢晢ソスホヲ郢晢ソスPR

From Informa TechTarget

お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。

ITmedia マーケティング新着記事

news026.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...

news130.jpg

Cookieを超える「マルチリターゲティング」 広告効果に及ぼす影響は?
Cookieレスの課題解決の鍵となる「マルチリターゲティング」を題材に、AI技術によるROI向...

news040.png

「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。