2018年08月30日 08時00分 公開
特集/連載

徹底分析「Alibaba Cloud」Computer Weekly製品ガイド

AWS、Microsoft Azure、Google Cloud Platformの独占状態にあるパブリッククラウド市場。だが中国のIaaS大手Alibabaも世界制覇を狙う。

[Caroline Donnelly,Computer Weekly]

 パブリッククラウドの計画についてCIO(最高情報責任者)と話をすると、「Microsoft Azure」よりも「Amazon Web Services」(AWS)を使うメリット、あるいは反対にAzureを使うメリットがよく話題になる。

 AWSの幅広いサービスや新サービスを打ち出すペースの速さも魅力だが、多くの企業が自分たちのワークロードやアプリケーションをホスティングするインフラとしてAWSに頼っているという事実そのものが、選ぶべきはAmazonのクラウドだとCIOに確信させる。

 一方で、Microsoftのパブリッククラウドの成長は、同社のオンプレミス技術を長年使ってきたユーザーによるアップグレードと、Azureへのワークロード移行が原動力となっている。こうしたユーザーは、Azureへの全面的な移行か、ハイブリッドクラウド戦略の採用かを選択できる。

 「Google Cloud Platform」が言及されることも少なくない。特に、企業向けの「G Suite」を超えたオフンプレミスサービスの利用拡大を検討している企業はその傾向が大きい。

 そうした状況を見ると、パブリッククラウド市場はこの3社の争いのように思える。だが、中国のサービス事業者Alibaba Cloudが第4の勢力として急浮上しつつある。

 世界のIaaS市場に関するGartnerの2017年の統計によると、2016年を通じたAlibabaの収益の伸びはAWSやMicrosoft、Googleを上回り、2億9800万ドル(約328億円)から6億7500万ドル(約743億円)へと126.5%増えた。

 同報告書はまた、Alibaba Cloudを世界3位のパブリッククラウド事業者と位置付ける。Alibabaの市場シェアは約3%。これに対して2位のMicrosoftは7.1%、世界首位のAWSは44.2%で、Googleは4位に位置する。

 Alibabaは本国中国のパブリッククラウド市場で47.6%のシェアを確保してトップに立つ。同社は過去2年ほどの間に、AWSやMicrosoft、Googleと直接対抗することにより、海外でも同じ成功を収めることを目標にしてきた。

世界進出を阻む障壁

 世界制覇を目指すAlibabaの計画を阻みかねない要因としてGartnerは2017年6月、Alibabaになじみが薄い中国外のCIOを説得して、他社ではなくAlibabaを選んでもらうことの難しさを挙げた。

 世界のIaaS市場動向について分析したGartner Magic Quadrantが指摘する通り、Alibabaにはパブリッククラウド分野で他社と差別化を図れる要素が「ほとんどない」。

 「Alibabaの(国際サービスは)2016年半ばに立ち上げられた。実績は限られ、中国で展開しているサービスのようなフル機能も性能もない」

 「同社は過去1年半の間に中国外の市場でサービスを急拡大してきたが、そうした市場のバイヤーと共有できる思考があまりなく、まだ現地で求められる人材や業界エキスパート、市場進出能力を確立する途上にある」

 そうした事情を考慮すると、Alibaba Cloudが「中国での成功を母国外に移転するためには、相当の障壁を克服しなければならない」とGartnerは結論付ける。

 そのための手段の一つとして、Alibabaは2016年3月に表明した通り、中国外で初のデータセンターを建設した。

 これによって道筋を付け、2016年11月には欧州の施設をドイツに開設した。以来、データセンターリージョンの数を増やし、オーストラリア、香港、インドネシア、日本、マレーシア、アラブ首長国連邦(UAE)を含む世界12カ所でデータセンターを運営している。

 Alibaba Cloud Europeのゼネラルマネジャー、イェミン・ワン氏はComputer Weeklyの取材に応え、2018年中に欧州で2番目のデータセンターを開設するかもしれないと語った。

 「われわれは、ある意味で非常にアグレッシブに、世界中でデータセンターを展開している。2017年(だけでも)アジア太平洋とインドネシア、マレーシアを横断して複数のデータセンターを開設した。2018年は欧州のデータセンターを検討しているが、まだ公表するには時期尚早だ」(ワン氏)

 同社は海外で法人顧客の獲得を狙うと同時に、中国の顧客に対しても、どこへ進出する場合も現地でAlibabaのクラウド製品にアクセスできると約束することにより、国際的な拡張計画の支援を目指している。

 「英国進出を望む中国の顧客は、われわれにとって最大級の顧客グループだ。そうした企業にとって最大の利点は、(世界のどこにいても)単一のユーザーインタフェースを維持することができ、われわれが中国からでも欧州からでもサービスを提供できる点にある」とワン氏は言う。

 偶然にもこれは、医学誌「British Medical Journal」(BMJ)が逆方向で使おうとしているコンセプトだった。同誌はオンライン教材を中国の医療従事者に届けるために、Alibaba Cloudを使っている。

 BMJの最高デジタル責任者シャロン・クーパー氏はComputer Weeklyの取材に対し、Alibabaと組むことで、中国のインターネット規制を守りながら、そうしたリソースを中国本土のユーザーに直接届けることができると説明する。

 「どんな組織にとっても中国市場は絶大な魅力がある。しかしわれわれにとっての魅力は特に、病院の数や研修を要する医師の数、医療が提供される方法の変化に表れている健康医療施設の激増にある」

 「中国でビジネスを展開するためには、他にもあらゆる規制やガイドラインに従わなければならない。そしてわれわれにとってそれは、自分たち独自のインフラ構築に巨額を投資することなく、同国で提供できるものを最大限に活用できる方法を見いだすことに尽きる」。クーパー氏はそう語った。

Alibaba技術の位置付け

 提供する技術に関しては、Alibabaのクラウドサービスポートフォリオはある程度AWSと似ている。一部を挙げただけでも、クラウドベースオブジェクトやブロックストレージ、エラスティックコンピュータサービス、コンテナベースサービス、同社独自のコンテンツ配信ネットワークなどを提供している。

 そうしたサービスは政府機関の他、小売り、金融サービス、ロジスティクス業界などの企業に採用されている。Alibabaはそれを理由に、そうした業界で求められるクラウドニーズを深く理解していると説明する。

 ワン氏によると、そうした業界の顧客から得た経験を基に、海外でも同じような業界の顧客をターゲットに据え、急成長するビッグデータ分析やAIサービスのポートフォリオを売り込む計画だという。

 その目標に向け、Alibaba Cloudは2018年2月のMobile World Congressを利用して、画像検索ツールやビジネスに特化したチャットbot技術「Intelligent Services Robot」、ビッグデータアプリケーション管理サービス「Dataphin」など、AIポートフォリオに新しく加わったサービスを紹介した。

 さらには高性能コンピューティングと研究市場への進出を深める取り組みの一環として、インスタンスを組み合わせてスーパーコンピューティングクラスタを構築できる「Bare Metal Elastic Compute Service」もデビューさせた。Alibabaは既にこの分野で英国の気象庁と提携し、両社でビッグデータ関連のハッカソンを開催している。このイベントでは、参加者が気象庁の気象データを使って、地球全土で無人バルーンのための安全なルート確立を支援するアルゴリズムを作成した。

 Alibaba Cloudはまた、Microsoftのハイブリッドクラウド導入サービス「Azure Stack」に対抗して、この技術に同社独自の解釈を取り入れ、「Apsara Stack」サービスの世界展開を開始した。

 Alibabaによると、この技術は既に中国では120社以上の顧客が利用している。国際バージョンでは、同技術の欧州のユーザーが、自社のプライベートデータセンター内でAlibaba Cloudのサービスにアクセスして運用できる。

 Alibaba Cloud Internationalの最高クラウドアーキテクト、デレク・ワン氏がComputer Weeklyに語った通り、同社が提供するサービスはAIを組み込んだクラウドサービスにユーザーが自社データセンターからアクセスできるという点が、同社にとって差別化を図るための大きな強みとなる。

 「われわれは、欧州の企業の多くがプライベートクラウドの採用に関して保守的だと理解している。そこで(そうした企業のために)新しいプライベートクラウドを立ち上げ、ユーザーがAIとデータセンターインテリジェンスサービスを、顧客自身(の施設)で使えるようにした。これによってAmazonやMicrosoftやGoogleとの差別化を図る」とワン氏は語る。

 欧州のCIOを顧客とするために、この提案だけで十分かどうかはまだ分からない。ただ、Alibaba Cloudが戦わずして諦めない姿勢でいることは間違いない。

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