AWSとAzure、GCPで理解 「テレワーク」に役立つクラウドサービスとは?テレワークに伴うIT部門の負担を軽減

テレワークの実現を支援するクラウドサービスには、どのような種類があるのか。AWSとMicrosoft、Googleのサービスを例に挙げて説明する。

2020年12月30日 05時00分 公開
[上田 奈々絵TechTargetジャパン]

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止を受けて、企業は在宅勤務などのテレワークへの急速な移行が迫られた。こうした状況においては、ハードウェアへの初期投資が必要なく、即時に導入と拡張が可能なクラウドサービスの利用に一考の価値がある。

 本稿はテレワークに役立つクラウドサービスをジャンル別に紹介する。各ジャンルで具体的にどのようなクラウドサービスが利用できるのかを判断する上での参考として、さまざまなクラウドサービスを取りそろえる「Amazon Web Services」「Microsoft Azure」「Google Cloud Platform」の3大クラウドサービス群を例に挙げる。

DaaS

 「DaaS」(Desktop as a Service)は仮想デスクトップを提供するクラウドサービスだ。OSやデータ、アプリケーションなど、クライアント端末の構成要素をサーバに集約し、サーバで構築した仮想デスクトップの画面をクライアント端末に転送する。従業員は自宅か外出先かを問わず、利用するクライアント端末の種類を気にすることなくアプリケーションやデータを利用できる。テレワークを実施する上ではクライアント端末からのデータ漏えいリスクが低くなる利点も見逃せない。

 DaaSベンダーは、仮想デスクトップ配信用サーバをクラウドサービスとして提供する。そのためユーザー企業はサーバ用のハードウェアを用意する必要がない。オンプレミスのインフラにサーバを設置して「VDI」(仮想デスクトップインフラ)製品を導入する場合と比べて、初期導入コストを抑えることができる他、エンドユーザー数の増減に応じたサーバリソースの追加と縮小がしやすいことが特徴だ。

 AWSのDaaS「Amazon WorkSpaces」は、「Windows」「iOS」「Linux」「Android」など各種OSを搭載したPCやスマートフォンの他、Amazon.com製のタブレット「Fire」シリーズなどのクライアント端末で仮想デスクトップを利用できるようにしている。Microsoftのディレクトリサーバ「Active Directory」をAWSで利用するためのサービス「AWS Directory Service」を用いたユーザー認証や、画面転送の暗号化機能も可能だ。

 MicrosoftはMicrosoft Azureで運用するDaaS「Windows Virtual Desktop」を提供している。仮想マシン1台で同時に複数のクライアント端末に「Windows 10」を配信するマルチセッション機能を利用できることが特徴だ。

ファイル同期サービス

 ファイル同期サービスは、WebブラウザやWindowsの「エクスプローラー」などを使い、クラウドベンダーのデータセンターにあるストレージを介してファイルを共有できるようにするクラウドサービスだ。オンプレミスのインフラに構築したファイルサーバの場合、社外からアクセスできるようにするためには、一般的にはLANやWANといった社内ネットワークの設定や構成を変更する必要がある。ファイル同期サービスを利用すれば、社内ネットワークの設定や構成を変更する必要なく、従業員はインターネットを介して場所を選ばずファイルにアクセスできるようになる。

 エンドユーザー同士でファイルを共同編集する機能を備えるファイル同期サービスもある。AWSの「Amazon WorkDocs」やMicrosoftの「OneDrive for Business」、Googleの「Google Drive」の場合、Microsoftのオフィススイート「Microsoft Office」のファイルやPDFファイルといった各種ファイルを共有したり、複数人で編集したりできるようにしている。これらのファイル同期サービスはAndroid端末やiOS端末向けのクライアントアプリケーションも用意する。

クラウドオフィススイート

 ドキュメントやスプレッドシート、プレゼンテーション資料作成のためのアプリケーション群をクラウドサービスとして提供するのが、クラウドオフィススイートだ。買い切り型のオフィススイートパッケージと違い、課金体系は月額のサブスクリプション方式が一般的であり、エンドユーザーは常に最新バージョンのアプリケーションを利用できる。

 Microsoftのクラウドオフィススイート「Microsoft 365」は、Webアプリケーション版の「Microsoft Word」や「Microsoft Excel」「Microsoft PowerPoint」などのオフィスアプリケーションが利用できる。

 Googleはクラウドオフィススイートとして「Google Workspace」(旧「G Suite」)を提供している。ワープロツールの「Google Docs」(Googleドキュメント)や表計算ツール「Google Sheets」(Googleスプレッドシート)、プレゼンテーションツール「Google Slides」(Googleスライド)などを含む。

 Microsoft 365とGoogle Workspaceの両サービスともリアルタイムの共同編集機能を搭載しており、テレワーク中の共同作業に適している。

Web会議ツール

 Web会議ツールは、音声・映像を使った通話機能やチャット機能を備える。専用の機器やネットワークは原則として不要で、エンドユーザーの手元にクライアント端末があり、インターネット接続ができれば、テレワーク中でも会議を開催できるのがメリットだ。

 主要なWeb会議ツールは、インターネット接続の他、PSTN(公衆衆交換電話網)の回線を使った会議への参加を可能にしている。エンドユーザーがWeb会議ツールを利用するには、一般的にはクライアント端末に専用のクライアントアプリケーションをインストールする必要がある。一部のWeb会議サービスはクライアントアプリケーションのインストールを不要にして、Webブラウザさえあれば利用できるようにしている。

 AWSの「Amazon Chime」は、同社の企業向け音声アシスタント「Alexa for Business」でWeb会議を開始できるようにしている。システム開発会社はSDK(ソフトウェア開発キット)の「Amazon Chime SDK」を使うと、自社開発のアプリケーションにAmazon Chimeの機能を追加することが可能だ。

 Microsoftはユニファイドコミュニケーション(UC)システムの「Microsoft Teams」でWeb会議機能を提供している。会議内容の自動文字起こし機能に加え、オンライン発表会やセミナーを開催するための大規模Web会議機能「ライブイベント」を備える。

 Googleの「Google Meet」は、メールサービス「Gmail」のAndroid版とiOS版のクライアントアプリケーションから、直接会議に参加できるようにしている。エンドユーザーは同社のスケジュール管理サービス「Google Calendar」(Googleカレンダー)の画面から会議用URLにアクセスしたり、参加者を招待したりすることが可能だ。

クラウドVPN

 「クラウドVPN」(VPN:仮想プライべートネットワーク)は、エンドユーザーがクライアント端末でインターネットなどの回線を使い、クラウドサービスやオンプレミスのインフラで稼働するアプリケーションを安全に利用できるようにする。クラウドVPNはオンプレミスのインフラで運用する通常のVPNと異なり、サーバやルーターなどの設備投資が不要だ。クライアント端末の同時接続可能数を自動で増減させることが可能なサービスもあり、全社的なテレワークへの移行で、既存のVPNの利用が増加したときに、VPNを増設する目的で利用できる。

 AWSの「AWS Client VPN」やMicrosoftの「Azure VPN Gateway」、Googleの「Cloud VPN」といったクラウドVPNがある。いずれのクラウドVPNも、VPNに必要なシステムの変更や更新などの管理作業はベンダーが担うため、ユーザー企業の負荷軽減につながる。

クラウドコンタクトセンター

 「クラウドコンタクトセンター」は、通話やチャット履歴の記録、通話の録音、顧客応対履歴の分析といったコンタクトセンターシステムの機能を、クラウドサービスとして提供する。通話を制御する物理的な「PBX」(構内交換機)をコンタクトセンター内に設置する必要はない。PCとインターネット接続環境があれば、どこからでも顧客応対ができる仮想的なコンタクトセンターを構築可能だ。

 通話のオペレーターは、ヘッドセットなど通話に必要なデバイスとPCがあれば、在宅でインバウンドコール(顧客からの電話)を受け取ることができる。管理者も遠隔でサービスレベル(顧客対応の質)の監視とオペレーション(業務の実行状況)の管理が可能だ。全社的なテレワーク下でもコンタクトセンター業務を継続させるために大いに役立つ。

 AWSのクラウドコンタクトセンター「Amazon Connect」は、送受信した通話とメッセージの量に基づいた従量課金制で、初期導入費用がかからないのが特徴だ。Salesforce(salesforce.com)やZendeskのCRM(顧客関係管理)ツールと連携させれば、これらのCRMツールでAmazon Connectの機能を利用できる。

アプリケーションストリーミングサービス

 従業員が、さまざまな種類のクライアント端末で業務アプリケーションを利用する必要がある場合、DaaSの他に「アプリケーションストリーミング」サービスの利用が選択肢となる。アプリケーション仮想化技術の一種であるアプリケーションストリーミングは、サーバにあるアプリケーションをクライアント端末にストリーミングして実行する技術だ。

 アプリケーションストリーミングで配信したアプリケーションは、クライアント端末にインストールすることなく利用できる。こうした仕組みをクラウドサービスとして提供するのがアプリケーションストリーミングサービスだ。クラウドベンダーのデータセンターにアプリケーションとデータを保管するため、テレワーク中でもインターネットを介してこれらのアプリケーションやデータを利用できる。

 DaaSと比べると、アプリケーションストリーミングサービスの選択肢はまだ多くない。数少ないアプリケーションストリーミングサービスであるAWSの「Amazon AppStream 2.0」は、HTML5準拠のWebブラウザにアプリケーションをストリーミングできる。


 クラウドサービスは初期コストが不要で、ハードウェアへの投資が必要ないため、迅速なテレワーク導入が必要な場合に適している。テレワーク実現のために役立つクラウドサービスを検討する上で、本稿が参考になれば幸いだ。

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