大規模大学がコロナ禍の「SAP S/4HANA」導入で直面した課題とは?コロナ禍の大学ERP導入事例【後編】

ペンシルベニア州立大学がERPパッケージ「SAP S/4HANA」の導入により基幹システムを刷新したのは、新型コロナウイルス感染症の流行のさなかだった。同校はどのような課題に直面し、どう対処したのか。

2020年09月30日 05時00分 公開
[Jim O'DonnellTechTarget]

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 老朽化した手組みの基幹システム「IBIS」(Integrated Business Information System)から、新たな基幹システムへの移行を進めるPennsylvania State University(ペンシルベニア州立大学)。同校は3年にわたる開発を経て、2020年初めには新基幹システム「SIMBA」(System for Integrated Management, Budgeting and Accounting)の本番運用を開始するはずだった。だが、それはかなわなかった。

新型コロナが基幹システム刷新に与えた影響

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に見舞われ、ペンシルベニア州立大学はプロジェクトの最終段階の計画を変更した。オンラインと対面方式を組み合わせたエンドユーザーのトレーニング段階に差し掛かろうという段階での出来事だった。

 2020年3月第2週ごろ、ペンシルベニア州立大学は閉鎖になり、教育も管理業務も完全にリモートで遂行することになった。このためSIMNAの開発チームは、エンドユーザー向けの全てのトレーニングをオンラインで実施せざるを得なくなった。

 これはSIMBAの初期の成否を左右する重要な要素だった。「特にレガシーシステムから『SAP S/4HANA』に移行するために必要な変更手続きの重要性は大きかった」と、SAPのグローバルバイスプレジデント兼ビジネスユニット教育・研究責任者のマルコム・ウッドフィールド氏は説明する。ペンシルベニア州立大学はSIMBAの中核要素として、SAPのERP(統合業務)パッケージであるSAP S/4HANAを利用している。

 「学習のオンライン化についてはよく耳にするが、職員研修のオンライン化については忘れられがちだ」とウッドフィールド氏は指摘。「われわれは概して、システム移行の成功といった技術的な成果をプロジェクトの指標にする。だがエンドユーザーに受け入れてもらえなければ意味がない」と主張する。

 こうした考えから、ペンシルベニア州立大学はオンラインのエンドユーザートレーニングに投資して、ロックダウン(都市封鎖)が終わるまでSIMBAの稼働を待つことにした。「これは賢明な措置だった」とウッドフィールド氏は振り返る。

手作業からの脱却

 今回のプロジェクトで最も困難だったことは何か。「エンドユーザーに、何十年も使ってきた旧式のシステムから、新しいシステムに移行してもらうことだった」と話すのは、ペンシルベニア州立大学で金融・ビジネス担当シニアバイスプレジデントを務めるデービッド・グレー氏だ。

 SIMBAへの移行は、モダンなWebベースのGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)への変化だけではなく、プロセスの変更も伴う。例えばIBISはモジュール同士が連携しておらず、エンドユーザーはさまざまな手作業を要した。意思決定フローにおいて、エンドユーザーが手作業で次の担当者にプロセスを引き渡さなければならないといった具合だ。

 SAP S/4HANAでは、エンドユーザーが何を変数にするのか、プロセスは幾つかといったことを決めると、システムが一連のプロセスを自動で設計してくれる。「このおかげで、既存のプロセスを合理化して、決裁過程における一部のプロセスを省くことができた」とグレー氏は効果を語る。

プロセスの改善だけではない効果

 グレー氏はSIMBAにより、IBISでは困難あるいは不可能だった処理が実現できるようになることを期待する。複数年にわたる予算編成や資材調達が実現すれば、IBISでは不可能だった戦略的調達ができるようになる。ペンシルベニア州立大学は、こうした変化を「コスト削減や効率性向上のための絶大な機会だと捉えている」と同氏は語る。

 複数年にわたる予算編成が本格的に実施できる状態になるのは、2021年になる見通しだ。これにより大学の予算編成プロセスが劇的に改善し、より現状に即した予算や人材の割り当てが実現するとグレー氏は見込む。ペンシルベニア州立大学は「この点において同業者に大きく後れを取っていた」と同氏は指摘。SIMBAが同校にもたらすメリットは「巨大かつ変革的なものになるだろう」と語る。

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