AI導入の最も重要なポイントは「AIでなければできない」ことにAIを使うことだ。「AI導入」が目的ではなく手段であることを見失わなかった2つの事例を紹介する。
前編(多くの企業が失敗している「AIの収益化」を成功させる方法)では、企業のAI導入の現状とAIから財政上の利益を得るための方法を紹介した。後編では、AIを利益に結び付けた2つの事例を紹介する。
AIがなければ、Virgin Hyperloopは新しいハイパーループベースの交通システムを設計することも、投資家から新たに資金を集めるための根拠を示すこともできなかっただろうと話すのは、同社のジェローム・ウェイ氏(機械インテリジェンスおよび分析部門シニアディレクター)だ。
ハイパーループは、既に驚異的な速度を誇る磁気浮上(マグレブ)鉄道をベースに、真空の管の中を移動させることによってさらに高速化するというものだ。Virgin Hyperloopは2020年11月にこの技術を利用した初の有人試験運転を実施した。このときは2人の従業員を乗せ、全長500メートルの試験走路を15秒で移動した。その過程で時速107マイル(約172キロ)に達している。
目標は、2025年までにこのシステムの認可を受け、2030年までに商用バージョンを展開することだ。
「これをデマンド型(需要応答型)交通システムにするのが目標だ。Uber Technologiesのライドシェアリングと同様、利用者は車両が時刻表通りに到着するのを待たずに済む。システムは利用者の都合に合わせて調整され、必要に応じて容量を割り当てる」と同氏は説明する。
ウェイ氏によるとその先には、運転手のいない何千もの小型車両群が動きを調整しながら連携するというビジョンを描いているという。
これ実現するため、作業計画は2つの領域に分かれている。一つはチューブ状の走路や乗降場などの物理インフラを設計すること。もう一つは地理などの制約を考慮した上で、できる限り高いエネルギー効率で車両が移動できるように最適化することだ。
そのためにはAIが不可欠だとウェイ氏は言う。「当社は、通常の方法では恐らく実現できないスケジュールで設計や製品の成熟度を迅速かつ反復的に高めようとしている。多くの情報をきめ細かい方法で統合し、集約して、適切な設計を考案する能力は人間にはない。それは不可能だ」と同氏は付け加える。
同氏が率いるチームは、Amazon Web ServicesとDatabricksのプラットフォームを使ってシミュレーションとビッグデータセットの分析に取り掛かり、出資者にとって重要な指標に基づいてさまざまな設計アイデアの長所と短所を評価して、それらのアイデアが機能するかどうかを把握した。
もう一つ重要な目標は、データを使って「当社がどれだけの価値をもたらせるかを主張し、納得させ、実証することだ。これはユーザー向けアプリケーションを構築するような低コストの事業ではない。合計4億ドル(約438億円)以上のコストがかかる」と同氏は説明する。
AIが全ての問題に適しているわけではないことをウェイ氏は認識している。膨大な量のデータを処理して複雑なシナリオや実社会の問題を理解することが極めて重要なこの種のシナリオでは、AIが最善の解決策となる。
「人間はこれほどの規模のものを全て頭の中に収めることはできない。解決したいと考える問題に最も適した技術を使うことが重要だ」(ウェイ氏)
デジタル国際送金プロバイダーのWorldRemitは、英国でコロナ禍による初めてのロックダウンが実施された際にチャットbotを実装した。その実現のため、同社は顧客の重要な課題の解決に重点を置き、これを行う事業部門と緊密に連携した。
国外送金にWorldRemitのサービスを使いたいと考えるユーザーが一夜にして倍増していることに同社は気付いた。これまでは街角に店舗を構えるWestern Unionなどの従来型企業が送金取引を請け負っていた。だが、ロックダウンによって店舗に出向けなくなった。これが高齢顧客によるオンライン機能の需要急増につながった。だが、こうした顧客層は同社の従来の顧客ほどデジタルに精通しているわけではない。
結果、WorldRemitのコールセンターへの問い合わせも急増した。問い合わせの多くは同社のサービスの仕組みや、どこに、あるいはどこから送金できるのかを尋ねるシンプルなものだ。
WorldRemitはWebサイトに「よくある質問」ページを掲載するだけでなく、チャットbotを「お問い合わせ」ページに導入することも決めた。質問に答えられない場合はエージェントに渡し、ライブチャットを使って一度に複数サポートし、電話回線は複雑な問題への対処のために空けておくようにした。
ServisBOTの会話型AI botは2週間で導入された。その理由について、WorldRemitのジャスティン・セボク氏(シニアプロダクトマネジャー)は次のように説明する。「今回は、何カ月もかけていられず、数日で解決しなければならない深刻な問題だった。サプライヤーの選定は、迅速かつ効率的であることが要件だった」
技術チームはまず、顧客サービス部門の責任者や製品チームと毎日スタンドアップミーティングを実施して採用するアプローチを見直し、継続的な改善プロセスを確実に行うようにした。ただし「平常業務モードに移る中で、ミーティングの頻度は1週間に3回くらいになっている」とセボク氏は言う。
もう一つ考慮したのは過去の失敗から学ぶことだった。同社が以前にチャットbotを導入した際、特に必ずしも英語が母国語ではないユーザーからの質問に答えるための基盤となる適切なデータが整備されていなかった。それがチャットbotを廃止する原因になった。
同様の問題が再び起きないようにするため、ユーザーが選択肢を選んで進められるメニューベースのアプローチを採用することにした。
ただし、メニューベースのアプローチは既に限界が見えており、2022年に向けてさらに進化させる方法を検討する予定だ。チャットbotを同社のバックエンドシステムと統合して、より洗練された方法で質問に答えられるようにすることが主な目標になる。
もう一つ目標がある。Webサイトの支払いページなど、特定のコンテキストにチャットbotを埋め込んで顧客に適切なアドバイスを提供し、顧客維持率を高めることだ。
「現時点では、大量の取引流入をうまく処理しながらコストを抑えることで効率性を生み出すことが主な目的だ。だが、よりコンテキストに配慮して比較的問題が起きやすい顧客サービス分野に対処する中で、さらに収益が伸びることを期待している」(セボク氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
AIの進化が加速する「プラットフォームビジネス」とは?
マーケットプレイス構築を支援するMiraklが日本で初のイベントを開催し、新たな成長戦略...
「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2024年12月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。
2024年の消費者購買行動変化 「日本酒」に注目してみると……
2023年と比較して2024年の消費者の購買行動にはどのような変化があったのか。カタリナマ...