「SD-WAN」のメリットはローカルブレークアウトによる負荷分散だけではない。導入の仕方によっては「コスト削減」も可能だ。どのような場合にコスト削減が可能になるのか。
WANを仮想化する「SD-WAN」(ソフトウェア定義WAN)の導入に当たっては、クラウドサービス利用に適したネットワーク運用ができるかどうかという点に加えて、コストも重要な判断材料になる。SD-WANの導入はコスト削減につながるのだろうか。
アイ・ティ・アール(ITR)のプリンシパル・アナリストである甲元宏明氏は「世界的にSD-WANの導入が進んできた理由はコスト削減だった」と説明する。一方の国内企業が特に注目してきたのはコスト削減ではなく、第2回「『SD-WAN=ローカルブレークアウト手段』は昔話? テレワークで起きた変化とは」で紹介した通り、拠点から直接インターネットに接続するローカルブレークアウトだった。ただし国内企業もSD-WANをうまく生かせばコストを削減できる場合がある。どのような方法があるのか。
SD-WANによるシンプルなコスト削減のパターンは、WANをより安価な回線に置き換えることだ。これは国内企業よりも米国など海外の企業が主に注目してきた。IP-VPNや広域イーサネットといった閉域網の回線をインターネット回線で代替することが分かりやすい。例えばバックアップ用を含めて閉域網の回線を2本利用している場合は、バックアップ用の回線をインターネット回線に変更し、併せてSD-WANの機能によって両方の回線を同時に利用する。これによって利用可能な帯域幅(回線容量)の拡大やアプリケーションの種別に応じた利用回線の切り替え、回線コストの削減が可能になる。
注意が必要なのは、既存回線と移行後の回線の利用料金に大きな開きがなければトータルコストの削減は難しいことだ。SD-WAN製品を導入する場合は導入費用やライセンス費用が別途発生する。海外企業がSD-WANによるコスト削減効果に注目しやすいのは、閉域網とインターネット回線の料金の差が大きいためだ。国内では閉域網の回線を比較的安価に利用できるので「インターネット回線に置き換えてもコストメリットはそれほど大きくならない」と甲元氏は説明する。
国内でSD-WANによるコスト削減効果は期待できないのだろうか。甲元氏によれば国内でもコスト削減ができる事例はあるという。「コスト削減効果が大きく出るのは、クラウドサービス中心型のネットワークに全面的に移行する場合だ」と同氏は説明する。ITRが導入支援をしたある製造業の場合、SD-WANとゼロトラストセキュリティの概念に基づくセキュリティサービスを中心とした構造に移行することで、大幅なコスト削減を実現した。
この企業は、オフィススイート「Microsoft 365」(Office 365)やクラウドサービス群「Amazon Web Services」(AWS)などクラウドサービスを積極的に活用しており、クラウドサービス接続時のネットワーク制御やセキュリティ対策が必要になっていた。そこで下記の2パターンでコストを試算した。
既存のデータセンター機能を維持する場合、コストは30%増加する試算になった。これに対してSD-WANとセキュリティのクラウドサービスに全面的に移行する場合は40%削減できる試算となり、結果的に後者を選択した。コスト削減が可能になったのは、SD-WANで代替できるネットワークや、セキュリティのクラウドサービスで代替できる設備が不要になったからだ。具体的には下記の機能を廃止した。利用料金がなくなっただけではなく、機器の保守・運用の料金も削減した。
「コスト削減効果は拠点数が多ければ多いほど大きくなる」と甲元氏は話す。この企業の場合、ネットワークとセキュリティ機能の見直し対象になったのは130拠点ほどだ。
もちろんコスト削減だけがSD-WANの導入メリットではない。クラウドサービスの利用を拡大する場合に、SD-WANを使って迅速にネットワークリソースを配備したり、アプリケーションの快適な接続環境を用意したりできるようにするだけでもメリットがある。コスト削減ができない場合でも、クラウドサービスに適した運用を取り入れつつ、ネットワークやセキュリティ機能の増強コストをできるだけ抑制する観点でSD-WANを活用することは可能だ。
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