朝日新聞社はSD-WANを導入してネットワークの逼迫に対処するとともに、ネットワークコストを削減した。どのようにして実現したのだろうか。
国内の主要拠点にSD-WAN(ソフトウェア定義WAN)を導入し、データセンター“一極集中型”の旧来のネットワークを刷新した朝日新聞社。各拠点から直接インターネットに接続するインターネットブレークアウト(ローカルブレークアウト)によってネットワークの逼迫(ひっぱく)を解消し、SD-WANの導入後にオフィススイート「Office 365」の導入も開始した。
朝日新聞社がSD-WANを導入したのは、本社や取材拠点となる全国の総局、新聞の印刷工場などを接続するWANだ。新聞記者が原稿や画像を出稿したり、社内システムに接続したりする際に用いる。SD-WAN導入のプロジェクトを統括した同社情報技術本部の諏訪部 智氏が「絶対に停止してはいけない」と説明するこのWANは、文字通り新聞製作の根幹を支えている。
2003年に構築した旧来のネットワークは、冗長化した2本の広域イーサネットで拠点間を接続する構成だった。朝日新聞社ではインターネット経由で配信する記事が増えただけではなく、記者が出稿する内容も動画や画像など大容量のデータが多くなった結果、広域イーサネットが逼迫するようになった。一方でインターネットとの通信は、プロキシサーバやファイアウォール機能を備える東京または大阪のデータセンターに集約する構成だった。インターネットとやりとりするトラフィックが広域イーサネットで構成する拠点間ネットワークに混在することになるため、これもネットワークの逼迫を招く要因となっていた。
こうした状況に対して、朝日新聞社は何も対策を講じなかったわけではない。各取材拠点に動画出稿用のインターネット回線を増設し、プロキシサーバを増強した。ただし「エンドユーザーである記者などの従業員は、使用する回線を手動で切り替える必要があり、ユーザーフレンドリーではなかった」と、同社情報技術本部でSD-WAN導入を主導した渡辺秀夫氏は振り返る。トラフィックが継続的に増加することを考慮すれば、将来的にさらに本社のインターネット回線やプロキシサーバなどのネットワーク関連機器を増強するためのコストが必要になることも課題だった。
「抜本的にネットワーク構成を変える必要性を感じていた。変えるのであれば拠点から直接インターネットに抜けるインターネットブレークアウトを実現したかった」と渡辺氏は語る。インターネットブレークアウトを実現すれば、クラウドサービスなどのインターネットを介して通信するトラフィックを社外のネットワークに逃がすことができ、拠点間ネットワークのトラフィックを抑制できる。
インターネットブレークアウトを実現するための手段として朝日新聞社が選んだのがSD-WANだ。同社がネットワーク更改を具体的に検討し始めた2016年に、SD-WANは国内でも注目を集め始めていた。SD-WANは物理的なWANで構成する「アンダーレイネットワーク」をソフトウェアで仮想化して、論理的なWANである「オーバーレイネットワーク」を構成する。複数の物理的なWANを一元的に運用管理し、トラフィックを種類に応じて最適な物理WANに自動的に振り分けることができる。運用管理の負担を増やすことなくインターネットブレークアウトを実現する手段として有効だ。
SD-WAN製品のベンダーとしてViptela、VeloCloud Networks、Riverbed Technologyの3社が候補に挙がった。なおSD-WAN分野では近年、業界再編の動きがあり、Cisco Systemsが2017年にViptelaを、VMwareが2018年にVeloCloud Networksを買収している。
朝日新聞社が製品選定に当たって重視したのは、「適切な広域イーサネットが使えるかどうか」と「自動的に複数回線の冗長性を確保できるかどうか」の2点だ。2016年時点でこうした条件を満たせるSD-WAN製品がViptelaだったという。
ただし導入に当たって問題は少なくなかった。Cisco SystemsがViptelaの買収を進める間、ライセンスなどの提供条件が決まるのに時間がかかったり、Viptela導入に必要なネットワーク機器の部品が国内でそろわなかったりする事態があった。最終的にネットワンシステムズの協力を受けて導入を開始したのは2018年8月だった。計画していた2018年4月からは4カ月遅れたことになる。
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