「低PUEのデータセンター」は何がすごいのか? 軽視できないサーバ冷却データセンターの省エネ対策【前編】

データセンターにおける電力の使用効率を示す「PUE」。これを向上させるにはサーバ冷却の効率化など対策が必要だ。優れたPUEを達成するデータセンターは、どのような手法を取り入れているのか。

2022年05月20日 05時00分 公開
[遠藤文康TechTargetジャパン]

 データセンターによる二酸化炭素(CO2)排出を削減する対策には、主に2つの軸がある。電力の使用効率を高めることと、再生可能エネルギー由来の電力を使用することだ。本稿は電力の使用効率を高める方法を紹介する。

 「PUE」(Power Usage Effectiveness:電力使用効率)という指標がある。データセンターのIT機器が、いかに効率的に電力を使用できているのかを測る指標だ。米国情報技術工業協議会(ITI)の関連団体であるThe Green Grid(TGG:グリーン・グリッド)が定義し、2007年に公開した。国内でも広く使用されている。PUEは、データセンターの全消費電力量を分子にして、サーバやストレージなどのIT機器の消費電力量を分母にして求める。IT機器が占める消費電力量が多いほどPUEの値は下がる。全ての消費電力量をIT機器が占める状態は1.0となる。

 データセンターごとにPUEは、ばらついている。2.0以上で全消費電力量の半分以上をIT機器以外に使用しているデータセンターは珍しくない。その一方で、1.1前後で極めて高効率に電力を使用しているデータセンターもある。

「低PUEのデータセンター」とは何なのか? そもそも“普通のPUE”は?

 経済産業省がデータセンター事業者を対象に実施したアンケート調査によれば、国内のデータセンターの平均的なPUEは1.7前後だ(注)。

※注:経済産業省が2022年3月24日に公開した「総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 省エネルギー小委員会 工場等判断基準ワーキンググループ 中間取りまとめ」によれば、アンケートで回答のあった72事業所のPUEの最頻値は1.6以上1.8未満だった。

 一般的には、開設当初のデータセンターでは稼働するサーバラック数が限られ、空調機器や共用設備の消費電力量の割合が大きくなる。そのためデータセンターの開設から時間が経過し、稼働するIT機器が増加するとともにPUEは向上する。PUEを根本から改善するために、より意識しなければならないのは、空調機器などデータセンター設備の設計や運用における工夫だ。

 IT機器以外の電力消費としては、

  • 空調機器をはじめとした冷却設備
  • 照明をはじめとした共用設備

の稼働によるものの他、UPS(無停電電源装置)といった電源設備の電力損失(本来の使用目的とは異なるところで電力が失われること)などがある。データセンターの設計や構築、保守などを手掛けるNTTファシリティーズによれば、このうち特に冷却設備の消費電力量が大きくなる傾向にある。冷却設備は、設計や運用の改善による消費電力の削減効果が期待できる分野だ。

 電力を効率的に使用しているデータセンターは、どのような工夫を取り入れているのか。2018年に開設したNTTデータの「三鷹データセンター」が参考になる。2022年3月にデータセンターのオンライン見学会を開催した同社によれば、三鷹データセンターのPUEの設計値は1.3以下となっている。PUEを高めるために取り入れている工夫の一つが、空気を効率的に循環させる設計だ。

 具体的には、データセンター建屋に「冷気」と「暖気」の通り道をそれぞれ設け、温度の異なる空気が混ざり合わないようにしている。サーバラック背面から放出する暖気は1つの通路に集まり、建屋の側面を上昇して外部に出る。暖気の集まるところでは熱による上昇気流が発生する。それを生かすことで、空気を搬送するための電力を抑制可能だという。同社は今後、AI(人工知能)技術を使った空調の自動制御など追加的な対策により、PUE1.1を目指す方針だと説明する。

 GoogleはデータセンターにおけるPUE向上の取り組みを公開している。同社のデータセンターのPUEは、2021年第2四半期(4月〜6月期)の平均で1.1だ。PUEを公開している19カ所のデータセンターのうち、最小は1.06、最大は1.15となっている。こうして標準的な値より優れたPUEを達成している同社は、データセンター運用におけるベストプラクティスも紹介している。空調分野では、例えば

  • 冷気と暖気を分離して循環させること
  • 寒冷な外気を冷却に活用するフリークーリングを取り入れること
  • 空調機器の温度設定値を必要以上に低くしないこと
    • Googleはカ氏80度(約セ氏27度)程度に設定

などだ。

空調と電源の2つの検討ポイント

 電機メーカーのシュナイダーエレクトリックでデータセンター設備分野を統括する木口弘代氏は、「大規模事業者が実践する工夫は、一般的な企業のデータセンターでも実践できる」と推奨する。エッジ(データの発生元)に設置するマイクロデータセンターや、一般的な企業のサーバルームであっても応用可能だ。

 データセンターのPUEを高める上で、木口氏は空調と電源の2つが重要だと説明する。空調関連では、効率的な冷却方法を実践すること(後編で具体的に紹介)と、できるだけ省エネルギー性能の良い空調機器を採用することが検討ポイントになる。電源関連の検討ポイントの一つになるのは、UPSの効率(入力電力に対する出力電力の比)だ。基本的にUPSは停電時の非常用電源としてだけではなく、通常時もIT機器に電力供給する。UPSの効率が高いほどUPS内で損失する電力は小さくなり、発熱も抑制できる。発熱が増えれば、それを冷却するための電力も必要になるため、冷却の電力を抑制する意味でもUPSの効率の高さは重要だ。


 後編は、空調による冷却の効率性を高めるために検討可能なポイントを紹介する。

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