豊富なスキルを持ちながら職に就いていない、50歳以上の中高年齢者を現役復帰させようとする動きがある。目指すのは人材不足の解消だ。勝手に期待を寄せられた、中高年齢者の意識はどうなのか。
退職した50歳以上の中高年齢者は、概して保有するスキルが高く、得ていた報酬も高かった――。IT人材紹介エージェンシーAshdown Groupのマネージングディレクター、ジョン・ラインズ氏は、こう説明する。こうした中高年齢者の退職は、既に厳しい状況にあるIT業界の人材不足を、さらに悪化させるとラインズ氏はみる。「何十年にもわたって蓄積されてきた彼らの知識や経験を、他の人材で簡単に置き換えることはできない」(同氏)からだ。
英国政府は、定年退職や早期退職した中高年齢者の再就職を推進しようとしている。こうした動きは、人材不足に悩むIT業界に恩恵をもたらす可能性がある。むしろ「IT業界は、こうした退職者の現役復帰に期待せざるを得ない状況にある」と言うのが正しい。
2022年12月発表の調査報告書で、英国貴族院(上院:House of Lords)の経済問題委員会(Economic Affairs Committee)は、こうした楽観論に警鐘を鳴らした。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)以降に早期退職した中高年齢者は「ほとんどが復職を望んでいないし、期待もしていない」と指摘したのだ。
早期退職した中高年齢者は「ほとんどの人がパンデミック時に生活費を節約しており、それなりに裕福だ」と、経済問題委員会は調査報告書で説明。パンデミック以降に退職した人の、かなりの割合が再就職することを前提にするのは「賢明ではない」との見方を示した。
ラインズ氏はこうした見方に、大筋で同意する。その上で「好きなだけ、あるいは少しだけ働くことができるなど、自分の希望に合った働き方ができれば、退職者は再就職を決意する可能性がある」と語る。「高度な技術を持ち、お金に余裕のある人を仕事に戻す唯一の方法は、彼らが自分の条件で働けるようにすることだ」(同氏)
パンデミックを経て「人々の優先順位は変わった」とラインズ氏は指摘する。パンデミックで日常的なテレワークを経験した人は「テレワークをもっと継続したい」「もっとワークライフバランスを取りたい」と考えるようになったという。こうした考えを持つ退職者が再就職に踏み切るには「仕事に自由度とやりがいがなければならない」というのが、同氏の考えだ。
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