IT業界に限らず、さまざまな業種に人種や性別の偏りが残っている。偏りが如実に表れるのが人材の採用だ。幾つかの実験で、人種や性別が採用に影響しているとみられる赤裸々な実態が明らかになった。その内容とは。
ダイバーシティー(多様性)を重視する見方が広がる一方、企業の間でダイバーシティーを確保するための取り組みが浸透しているとは言い難い。企業が獲得する人材には、人種や性別の偏りが依然として残っている。その実態はなかなかにえげつない。
シカゴ大学(University of Chicago)とマサチューセッツ工科大学(MIT:Massachusetts Institute of Technology)の研究チームは、2003年に論文「Are Emily and Greg More Employable than Lakisha and Jamal? A Field Experiment on Labor Market Discrimination」を公開した。この論文の中で研究チームが示したのは、企業の求人に対して架空の履歴書を送る実験の結果だ。
研究チームは、アフリカ系米国人によくある名前のラキーシャ(Lakisha)とジャマル(Jamal)、白人によくある名前のエミリー(Emily)とグレッグ(Greg)という名前の架空の求職者を設定。それぞれの履歴書を作成して求人に応募した。その結果、企業から面接に招く通知が届いたのは、前者と比べて後者の方が50%多かったという。この結果は、企業が白人を優先して採用していることを示唆する。
カリフォルニア大学(University of California)とシカゴ大学の研究チームが2022年に発表した論文「Systemic Discrimination Among Large U.S. Employers」にも、同様の実験結果がある。この実験では、さまざまな人種の架空の求職者を設定して履歴書を作成。経済誌Fortuneによる企業の売上高ランキング「Fortune 500」にランクインする企業の求人に、8万3000件以上応募した。企業が履歴書を受け取った件数は、架空の求職者がアフリカ系の場合、白人よりも求人1000件につき21件少なかったという。
人種や性別の違いは、給与にも影響を及ぼす。IT業界の転職支援サービスを手掛けるVettery(Hiredの名称で事業展開)は、2018年1月から2022年12月における自社サービスの利用データ(約6万4000件の求人に関する計86万回以上の面接および求人情報を対象)を基に調査レポートをまとめた。同レポートによると、2022年において同等の仕事に従事する労働者の給与を比較したところ、白人男性の給与を1ドルとした場合、各グループの給与は以下の通りだった。
次回は、IT業界の採用に関する動向と有識者の見解を紹介する。
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