企業のインフラでは、従来使われてきたCPUに加えて「GPU」の役割が重要になりつつある。同じくインフラにおいて重要な仮想マシン(VM)でGPUを使う理由とは。具体的な方法と併せて解説する。
仮想マシン(VM)は、アプリケーションを実行するインフラのリソース利用を効率的にする仕組みだ。インフラ間での移動ができる移植性を備えてもいる。VMは企業のシステムでは欠かせない存在となっている。
一方でインフラでは、GPU(グラフィックス処理装置)の役割が重要になりつつある。CPU(中央演算装置)は、真偽を判断する基本的な演算処理である「論理演算」には適しているが、小数点を含む数を扱う場合に必要になる「浮動小数点演算」のような複雑な演算処理をするには能力が不十分だった。
GPUはCPUでできることの限界を超えて、より複雑な演算処理や高度なグラフィックス処理の実行を可能にしている。そこで、GPUをVMでどう使うかが以前に増して大きな関心事になってきた。
VMにGPUを追加することで、リアルタイムのデータ可視化や仮想デスクトップの画像処理など、要求が厳しくなりがちな演算処理をオンプレミスやクラウドサービスの仮想化インフラで効率的に実行できるようになる。
ただし、GPUがあればそうしたメリットを自動的に享受できるわけではない。VMでGPUサポート機能を使用するには、サーバのリソースを仮想化するソフトウェアである「ハイパーバイザー」で、GPUを使用するための設定をする必要がある。基本的にハイパーバイザーでは、「パススルー」と「仮想GPU」(vGPU)の2つのモードでGPUを利用できる。
パススルーモードでは、VMはGPU全体のリソースの利用と制御ができるようになる。仮想GPUモードでは、GPUのリソースを分割することで複数のVMがGPUのリソースを共有できるようになる。
本稿ではまずパススルーモードについて説明しておこう。パススルーモードでは、ハイパーバイザーは1つのVMに1つのGPUを割り当てる。VMは、グラフィック情報を一時保存する「GPUメモリ」を含めて、GPUの演算リソースを全て利用できるようになる。
こうしたパススルーの仕組みは、「vDGA」(Virtual Dedicated Graphics AccelerationVirtual Dedicated Graphics Acceleration)と呼ばれることがある。これはGPUを直接割り当てることを意味した用語だ。Virtualという単語が付いているが、他のVMがそのGPUにアクセスしたり、利用したりすることはできない。
パススルー機能は、コア(演算処理を担う個々の部品)の単位ではなくコアを搭載するチップの単位で動作する。GPU製品によって違いはあるが、チップには多数のコアが搭載されている。パススルーモードではそのコアの全てを1つのVMに割り当てる。逆に言えば、一部のコアを異なるVMに割り当てることはできない。
ただし最近のグラフィックボード(ビデオカード)は複数のチップを搭載していることが少なくない。そうなると個々のチップを異なるVMに割り当てることはできる。例えばNVIDIAのグラフィックボード「NVIDIA Tesla M6」(NVIDIA M6)には1枚のチップがあり、「NVIDIA Tesla M60」(NVIDIA M60)には2枚のチップがあり、「NVIDIA Tesla M10」(NVIDIA M10)には4枚のチップがある。
NVIDIA M10は、 NVIDIAが開発したコアの一つ「CUDAコア」(CUDA:Compute Unified Device Architecture)を2560個搭載している。企業においては、複数のVMでGPUを利用できるようにするために、複数のチップを載せたグラフィックボードを導入することがあるだろう。
パススルーモードは、演算処理の負荷が高くなるアプリケーションや、グラフィックスを多用するアプリケーションを実行するVMに適している。複数のユーザーがVMを共有して利用する場合に、パススルーによる演算処理のパフォーマンスが発揮されると考えられる。
ハイパーバイザーとしてはMicrosoftの「Hyper-V」、Cloud Software Group(旧Citrix Systems)の「XenServer」、2023年11月に旧VMwareを買収したBroadcomの「VMware ESXi」でパススルーモードが利用できる。
次回以降は、仮想GPUの基本や具体的な設定手順を紹介する。
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