AWSは生成AIの基盤モデルを提供しているが、オープンソースや自社開発の基盤モデルは使えるのか。他システムで使っているデータを学習させることは可能なのか。
テキストや画像などを自動生成するAI(人工知能)技術「生成AI」(ジェネレーティブAI)の開発や利用が盛んになっている。Amazon Web Services(AWS)も生成AIサービス「Amazon Bedrock」(以下、Bedrock)をユーザーに提供している。AWSのアジア太平洋地域担当チーフテクノロジストであるオリヴィエ・クライン氏に、同社クラウドサービス群における生成AI活用について聞いた。
AWSで生成AIを利用する場合、Bedrock以外の選択肢はあるのか。学習データの共有は可能なのか。
―― ユーザーがオープンソースの基盤モデルや、独自の基盤モデルをAWSに持ち込み、Bedrockの学習データを使うことはできますか。
クライン氏 Bedrockでは主要なAIベンダーが提供する基盤モデルを利用ができる。最近では、Meta Platforms(旧Facebook)の大規模言語モデル(LLM)の「Llama」も利用可能になった。Bedrockで選択できない基盤モデルであっても、機械学習モデル構築サービス「Amazon SageMaker」(以下、SageMaker)を利用すれば、より広範な種類の基盤モデルをAWSで利用可能だ。
一般的にはコンピューティングリソースの不足によって、AIモデルのトレーニングや実行ができないことがある。ただしSageMakerは必要なときだけAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を利用してリソースを呼び出す「サーバレスコンピューティング」による推論機能を搭載している。そのため、サービスの利用量の急増にも対処できる。
―― 分散型アーキテクチャを採用する企業が増えることで、AI技術の活用も分散型アーキテクチャに倣う可能性があります。AWSは、ユーザーがエッジ(データの発生源であるデバイスの近く)で推論を実行したいという要望に応えますか。
クライン氏 もちろんだ。AWSには、AWSのサービスをオンプレミス環境で実行できる「AWS Outpost」というサービスがある。そのため、AWSでトレーニングしたAIの推論処理を自社のデータセンター、さらにはスマートフォンでも実行できる。
IoT(モノのインターネット)サービスやアプリケーションの同期サービスと連携させることも可能だ。
―― それは例えば、「AWS IoT Greengrass」を使って基盤モデルをエッジで利用するような場合でしょうか。
クライン氏 その通りだ。AWS IoT Greengrassはクラウドサービスの機能をローカル(現場)のデバイスに拡張するソフトウェアであり、基盤モデルをエッジで利用するのに最適なサービスだ。
ただし、エッジで基盤モデルを実行するにはある程度の処理能力が求められる。そのため、最低限の要素からなるコンピュータ「シングルボードコンピュータ」(SBC)であるRaspberry Pi」での基盤モデル実行は難しい。技術的にはAWS IoT Greengrass をインストールしたRaspberryPiとクラウドサービスを常時接続して、LLMをエッジで動かすことは可能だ。今後はLLMがモバイルアプリケーションに導入されるにつれ、より処理能力の低いエッジのデバイスでLLM が動く可能性はある。
―― 「5G」(第5世代移動体通信システム)の普及に合わせてAWSがエッジ向けに提供されるサービスはありますか。
クライン氏 AWSは通信事業者向けに、5GインフラでAWSのサービスを利用できる仕組みを構築する「AWS Wavelength」を提供している。基地局内のサーバで、基盤モデルを含めたAWSのサービスや機能を実行できるため、インターネットを経由する場合と比べて遅延を抑えてサービスを提供できる。
こうしたITインフラを、普段使い慣れたAWSのツールやAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を用いて利用できるため、一部のソフトウェアベンダーからの需要がある。
―― AWSには、SnowflakeやClouderaのような、ISV(独立系ソフトウェアベンダー)との協力関係があります。これらの企業も生成AI事業に参入していますが、今後の関係はどうなりますか。
クライン氏 当社はSnowflakeやSalesforceなどのベンダーと素晴らしいパートナーシップを築いている。これらのパートナーの生成AIツールとAWSの一部サービスはセットになっている。
例えば、SalesforceのCRM(顧客関係管理)用の生成AI「Einstein GPT」はAWSでトレーニングできる。SaaS(Software as a Service)を統合管理するサービス「AWS AppFabric」から運用が可能だ。
基盤モデルを自社で構築・運用しているパートナーの場合でも、基盤モデルのトレーニングや運用においてはAWSが協力できる。
後編は生成AIについて、ユーザー企業がどのような要望を持っているかを紹介する。
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