開発者の人材不足に対処する方法として、企業はローコード/ノーコード開発に期待を寄せている。ただしローコード/ノーコード開発ツールを使う際は、幾つかのリスクに注意を払わなければいけない。それは何か。
企業がプログラマーではない従業員に対して、表計算ソフトウェア「Microsoft Excel」でマクロ(アプリケーション自動操作機能)を開発させるようになってから、「シチズンデベロッパー」(市民開発者)という概念が定着していった。「なぜ業務も部門も違う従業員にアプリケーションを開発させるのか」という疑問が生じるが、市民開発は理にかなっている部分もある。
自身が使うツールやサービスを従業員がコントロールするという考え方は興味深い。最低限のソースコードを記述する「ローコード開発」、ソースコードを記述しない「ノーコード開発」といった市民開発については、さまざまな意見が存在する。そのメリットばかりに目を向けてはいけない。
アプリケーションは常に微調整が必要であると同時に、特定のタスクに適した形にも調整可能だ。IT部門だけがアプリケーションを使うのではなく、各部門が必要に応じて必要なアプリケーションを使うことで、全社的な業務効率化が見込める。
データ統合ベンダーJitterbitのバイスプレジデント兼EMEA(欧州、中東、アフリカ)ゼネラルマネジャーであるジュースト・デボット氏によると、近年はローコード開発ツールが人気だ。非プログラマーやIT部門以外のエンジニアは、ローコード開発ツールを使うことで、プログラミングに関する知識がなくてもアプリケーションを開発できるようになる。ただしデボット氏は「誰でも業務アプリケーションを開発できるようになったが、そのアプリケーションが自社ビジネスに価値を提供するかどうかは別の問題だ」と語る。
IT分野のトレンドの典型的なパターンとして、新しい技術やツールに対する最初の期待が、現実に直面して冷めてしまうことがある。デジタルトランスフォーメーション(DX)コンサルティング企業embracentでデジタルプラクティスリードを務めるガレス・カミンズ氏は、こうした期待の浮き沈みは「当然のことだ」と語る。カミンズ氏はITツールの導入について、技術主導ではなく、ビジネス上の価値があるかどうかを見極めて判断することの重要性を強調する。
カミンズ氏は「IT部門ではない従業員が、迅速に製品やサービスを構築、展開できるようになることのメリットは大きい」と語る。だがそれと同時に、「管理方法を間違うリスクも伴うし、重大かつ複雑な悪影響を及ぼす可能性がある」とも同氏は言う。どのITツールを導入する場合でも、一定レベルのガバナンスが必要であり、データとデータセキュリティが大きなリスクになることに注意しなければならない。問題が起きた場合のレピュテーション(風評)へのダメージや、サイバー攻撃から自社を守るためには、複数のITツールを評価し、自社の方針と手順に組み込むことが必要だ。
「基本の管理体制が整っていなければ、無秩序な市民開発が横行する可能性がある」とカミンズ氏は付け加える。市民開発のメリットを得るためには、まずは小規模なレベルで始めるとよい。
カミンズ氏は企業に対して、アプリケーション開発とデプロイ(配備)に関する基本のプロセスと管理方法を確立し、導入するITツールが自社のポリシーに準拠しているかどうかを確認するよう助言する。「市民開発の適切なガードレールがあれば、リスクを回避しつつ、市場に対する自社の適応性を向上させることができる。市民開発のメリットを実現し、自社全体に拡大できるようになる」(同氏)
次回は、ローコード開発ツールに対する有識者の意見を紹介する。
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